第5話 いざ実験の海へ
「ぼっちゃん。慶太ぼっちゃん……」
「……ほえっ」
眠い目をこすりながら周りを見渡すと、居間につながる縁側で、いつの間にか昼寝をしていたみたい。
僕のお腹の上には薄手のタオルケットが掛けられていて、頭の下には籐で作られた子供用の夏枕が置かれていたんだ。
あぁ、さっきまで縁側で算数のドリルをやってたんだっけ。
ちょっとお行儀は悪いけど、寝転びながら算数のドリルを解くと、なぜだか効率が上がるんだよね。母さんは「ちょっとどうなの?」って言ってたけど、この前ばーちゃんが来た時に「こういう事は、子供の自由にやらせるのが一番なんだよっ」って言ってくれたおかげで、こうやって時々縁側でドリルをしても怒られなくなったんだ。
ばーちゃんって、こう言う時に理解があって助かるよ。
でも今日は、朝からラジオ体操と町内の草むしりにも参加したから、ちょっと疲れたのかも。算数のドリルを解いている内に眠っちゃったんだな。
「えーっとぉ……」
僕が時計を探そうと思って振り返ると、そこにはとっても涼しそうな白のワンピースを着たダニエラさんがにっこり微笑んでる。
「今は10時10分ですよ。だいたい一時間程お休みになられてましたね」
どうして僕が、時計を探していた事が分かったんだろう?ダニエラさんはいつも、全く躊躇する事なく、僕の疑問に答えてくれるんだ。
しかも、ダニエラさんの手には可愛い朝顔の絵が描かれた団扇が握られてたんだよ。
後で母さんから聞いたんだけど、僕のお腹のタオルケットも枕もダニエラさんが用意してくれて、僕が目を覚ますまで、ずっと傍で団扇で扇いでくれてたんだって。
もうっ! ダニエラさんって優しいよねぇ。
「えへへ。寝ちゃった」
僕はちょっぴり恥ずかしくなっちゃって、頭をかきながら、舌をちょっとだけ、ペロリッ。
「……ぶふっ!」
すると突然、ダニエラさんが自分の口元を両手で押さえて突っ伏してしまったんだ。
「あぁっ!、ダニエラさん、どうしたの? 大丈夫?」
僕はびっくりして、ダニエラさんの元に駆け寄ったんだけど、ダニエラさんはうつ伏せになったままで、声を殺して「きゃーーー可愛いーーっ!」って叫んでたんだよ。
もぅ、時々ダニエラさんって発作みたいにこういう時があるよね。本当にびっくりしちゃうよ。
「えぇ、改めまして……コホン」
「慶太ぼっちゃん……ぶふっ……ぶふっつ。あぁ、いえいえ、大丈夫……ぶふっ……ですよっ」
なんだかダニエラさんは、未だに笑いをかみ殺しながら、お話してくれてるみたい。
「はぁ、はぁ、はぁ……(落ち着け、おちつけ……)……もといっ!」
「コホン。……先日、お約束しておりました、例の物がようやく出来あがりました。本来であれば慶太ぼっちゃんに作っていただくべき所でございますが、
ダニエラさんはとっても嬉しそうに報告してくれます。
「ありがとう! でも、作ってもらったらお金が掛かっちゃうんじゃないの? 母さんからは、5,000円しか、夏休みの工作代はもらってないけど、足りるかな?」
ちょっと不安顔でダニエラさんに尋ねてみます。
「いいえ、ご心配無用です。今回の試作品は、あくまでもダニエラ個人としての実験目的での試作品でございます。慶太ぼっちゃんは全くご心配には及びません」
「えぇそうなんだぁ。ダニエラさんありがとう!」
ぼくも嬉しくなっちゃって、ダニエラさんに、ニッコリ笑いかけたんだよ。
そうしたら、ダニエラさんがね。
「はうっ!……慶太ぼっちゃん。そっそのぐらいにしていただけないでしょうか?慶太ぼっちゃんの天使の様な笑顔が眩しすぎて、このダニエラ、少々行動に支障をきたしております。後生でございます。何卒、何卒ご容赦下さいます様、お願い申しあげます」
って言いながら、ダニエラさんは、僕の目の前に両手を広突き出して、僕の顔を見ない様に俯きながら、きゅっと目をつむってる。
「えぇぇ、どうしてそんな事言うのぉ」
僕もちょっと面白くなってきちゃって、ダニエラさんの手の横からひょこひょこと顔を出したり、引っこめたり。
その度に、ダニエラさんが真っ赤な顔をして「はうはうっ!」とか、「あぁぁ!」って言うのが楽しくって、結局30分ぐらいそうやって、二人でキャッキャ言いながら遊んじゃった。
「はぁぁ、楽しっ……あぁ、失礼致しました。ついつい時の経つのを忘れてしまいました。いけません、既に10時40分をまわってしまいました。実は、美穂さんにお願いしまして、急遽、公開動作試験を実施する事に相成りました。早速これから海の方へと参りまして、機器の設置を行いたいと思います」
ダニエラさんはそう言うと、居間の方に既に用意してあったナップサックと麦わら帽子を僕に渡してくれたんだ。
僕はそのまま、ダニエラさんに促される様に玄関に向かうと、既に母さんが玄関先でアル姉とお話しして、待っててくれたんだよ。
「あぁん、もぉ、けーちゃん遅いにかぁ。待ちくたびれたがやぜぇ。もう、荷物積んであるから、はよのられまぁ」
(翻訳:あぁ、もう、けーちゃん遅いじゃないですか? 待ちくたびれましたよ。既に荷物は積んでありますから、早くお乗りなさい)
「……あぁ、うん」
僕は、玄関越しに外を眺めると、玄関先に横付けする様に、大型の国産ピックアップトラック(逆輸入版)が止まってる。
あれっ、これじーちゃんの車だ。
いつの間にか、運転席には父さんが座ってて、どこぞの田舎の外国人映画スターもかくや、って言う感じの、ティアドロップ型のサングラスをかけてるよ。
うわぁ、だっさぁ。
「おい、慶太ぁ、早く乗れって、置いてくぞぉ」
なんだか、父さんもノリノリだ。
後で、車の中で聞いたんだけど、僕が寝ている間にダニエラさんが試作品の実験を海でやってみたいって、母さんにお願いしてぇ、ちょうど今日が土曜日でお休みだった父さんがついでに海釣りに行きたいって言い出してぇ、更にはアル姉も海で泳ぎたいって事になってぇ、最後に母さんが、実はダニエラさんとアル姉に可愛いビキニ買ってあったのぉって白状してぇ、急遽全員で海に行く事が決まったみたい。
しかも、実験場所の関係もあって、ちょっと遠いけど隣の県にある、ばーちゃんの別荘の方まで遠出する事になっちゃって、じーちゃんにお願いして車を借りたって事らしいね。
うーん、いつものんびりな高橋家って、こういう時の行動力が半端無いよねぇ。まぁ、その大半は、ダニエラさんの段取り能力の賜物だとは思うけど。
確かに、そのピックアップトラックの後部にある開放式の荷台には、ブルーシートにグルグル巻きにされた、巨大な装置が積み込まれているみたいだね。
「えぇぇ、この車に全員乗れるのぉ」
確かに逆輸入版の車だから、尋常じゃ無いぐらい大きいけど、車の後ろは全部荷台になってるんだから、乗れる範囲って限られてる様な気がするんだけど。
「ふふふっ、大丈夫ですよ。慶太ぼっちゃん。これはベンチシートの6人乗りですから。しかも、5.7リッターのV8エンジンを搭載しておりまして、乗り心地も万全でございます。こんな事もあろうかと、昨日エンジンについてはオーバーホールを済ませてございます」
やっぱりここでもダニエラさんは鼻高々だ。
「ささ、慶太ぼっちゃん。早速参りましょう。アルちゃん、お願いね」
「はーい」
ダニエラさんがそう言うと、アル姉が僕をひょいと持ち上げて、車の後部座席へと乗せてくれる。
そうそう、アル姉はとっても力持ちなんだよ。僕ぐらいだったら簡単に持ち上げちゃうんだ。
結局、運転席に父さん、助手席に母さん、僕の右隣にダニエラさん、左隣にアル姉が乗って、みんなで急遽お泊りで海に行く事になっちゃった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます