第4話 膝枕

「……はぁ、楽しいお風呂だったぁ」



 結構長い時間お風呂で遊んだ後で晩御飯。


 今日もダニエラさんが遊びに来ていて、一緒にご飯を食べたんだ。


 よく話しを聞いてみると、どうやらじーちゃんとばーちゃんが一緒に旅行に行っちゃって、自宅に誰もいないから、その間はウチに泊まって行くんだって。


 へへへ。今年の夏休みは最初からにぎやかだねぇ。


 ご飯を食べた後は、母さんとアル姉は食器のお片付け。父さんとダニエラさんは大好きな車の話で盛り上がってる。


 僕はって言うと、居間のテーブルの上に出されたスイカをむしゃり。


 ちょうどTVでは、今朝やってたのと同じ、米空母が日本に寄港した話で盛り上がってるみたい。



「……ねぇねぇ。ダニエラさん。あの空母ってそんなに強いの?」



 ダニエラさんと楽しそうに話している父さんがちょっぴり羨ましくなっちゃって、ダニエラさんに話掛けながら、こっそりダニエラさんの膝に頭を乗せてみる。


 ダニエラさんは、「はっ!」とした顔をしたけれど、そのままとろける様な笑顔で僕の頭を撫でてくれたんだ。


 横で見ていた父さんもちょっと苦笑い。


「そうですね。慶太ぼっちゃんの言われる通り、とっても強いですよ。ただし、空母は圧倒的な戦闘力を誇りますが、実質空母自体は単体の船でしかありません。しかも400mの長さを持つ巨大な船では、仮に魚雷に狙われでもしたら、とても逃げ切れるものではありませんね」



 ダニエラさんはとっても嬉しそうに説明してくれる。ダニエラさんが嬉しそうだと、なんだか僕も嬉しいな。



「えーっじゃあ、全然ダメじゃん。魚雷に弱いんだったら、潜水艦にすぐにやられちゃうんでしょ?」



 僕がそう言うと、ダニエラさんは「我が意を得たり!」とばかりにうれしそうに説明を続けてくれる。



「そこですっ! 流石は慶太ぼっちゃん。物事の本質を掴んでらっしゃる。そうです。空母の最大の天敵は、潜水艦なのです。ただ、もちろん米軍もその弱点をそのまま放置などしておりません。潜水艦対策として、空母1艦を中心として、空母打撃群と言うものが構成されています。空母打撃群には、1艘の空母と、そこに帯同する複数の護衛艦……、そうですね、主に駆逐艦、潜水艦、そして輸送艦などが含まれます

。これらの帯同する艦艇達が、あたかも貴婦人を守るナイトのごとく、空母に近づく悪の潜水艦を常に監視し、その排除に努めるのです」



 だんだん熱くなって来たダニエラさん。その拳には力が入る。



「そのおかげで、空母を狙う潜水艦が、空母打撃群の内側に入る事は至難の技と言えるでしょう。実は潜水艦はその構造上非常にもろく、至近距離での魚雷爆破により、ほぼ潜航不能となってしまいます。その為、現代のアクティブソナーを装備した雷撃を受ければ、ほぼ100%生存する事はできません」


「この様に空母打撃群を構成する米第七艦隊は、外骨格を持つ昆虫の様に強固な外殻に守られておりますので、事実上これらの空母打撃群の全ての帯同艦艇の攻撃をくぐり抜け、更に空母本体を撃滅する事は、ほぼ不可能であると言っても過言ではありません」



 ここでダニエラさんは、湯呑の温かいお茶を一口。ダニエラさんは美容の為に夏場でも冷たい物は口にしないんだって。まぁ冷酒は別って言ってたけど。



「えぇ、それじゃあ空母って、誰にも攻撃できないの?」



 僕は更に疑問を投げかけてみたよ。



「えぇ、そうですね。……私以外には不可能でしょうねぇ」



 ダニエラさんは、さも当然とばかりに、ニヤリとした不敵な笑いを浮かべます。



「へぇぇ、じゃあ、ダニエラさんだったらどうするの?」



 ダニエラさんは、僕のその言葉を待っていたかの様に、話し始めたのさ。



「はい。私であれば、いくつかの方法が考えられますが、現行の科学技術を活用すると言う意味では、原子力潜水艦の活用と、スクリュー音の改善と言う二択になりますでしょうか」


「原子力潜水艦であれば、無尽蔵とも言える電力を活用した電気分解によって、酸素を永遠に供給する事が出来ますので、もっとも簡単な方法は自身の直上を空母が通過するまで、海底にへばりついたまま長期間滞在すれば良いのです。ただし、この方法にも色々制限がございます。現在世界中に存在する原子力潜水艦の殆どは、相互監視下に置かれております。その為、特定の海域で消息を絶ったと言う事になると、世界中の原子力潜水艦がその海域の調査に入るでしょう。しかも、そんな怪しい海域を空母打撃群が通過する事はありません。よって、論理的には可能かもしれませんが、現実的にはかなり厳しいでしょうね。次にスクリュ音の改善です。実はこの方法はかなり有効であると考えられます。先ほどの話の通り、実は相互監視されているのは、直接の脅威となりうる原子力潜水艦のみです。ディーゼルエンジンを搭載した日本の潜水艦等は、その脅威の対象とはなっておりません。それはなぜかと申しますと、ディーゼルエンジンで航行すると言う事は、どうしても海上に浮上した状態でのエンジン始動が必要となる為、ある一定期間ごとに浮上せざるを得ないと言う事がネックになっています。つまり先ほどの様に、何か月も海底にへばりついていると言う様な事が出来ない訳ですから、空母打撃群としては、その脅威度は低いと言う訳です。しかし、現行の日本の技術力を舐めてもらっては困ります。リチウムイオンを活用した大容量バッテリに加えて、静穏性を極限まで追求したスクリュウを持つ潜水艦の建造が進んでいます。この潜水艦であれば、恐らく米国の空母打撃群の間をくぐり抜け、空母に対する魚雷攻撃を実現する事が出来るでしょう。しかし、これらの方法にも究極の欠点がございます。それは何かお分かりになりますか?」


 ダニエラさんはここで一息つくと同時に、キラキラした目で膝枕状態になっているの僕の顔を覗き込んで来たんだ。


 えへへ。下から見るダニエラさんって綺麗だなぁ……。あぁ、そうじゃなくって。



「うーんと、結局どちらも空母に攻撃を仕掛けられるかもしれないけど、今度は攻撃した後に逃げきれないって事じゃない?だって、入るのにそんなに大変だったら、出るのも大変でしょ?」



 僕はちょっと小首をかしげながらダニエラさんに返事をすると、今まで不敵な笑いを浮かべていたダニエラさんが、何か恐ろしいものでも見た様な、驚きの顔へ急激に変化。



「はうっ!慶太ぼっちゃん。まさにその通りでございます。はぁぁぁ。やはり私の目に狂いはありませんでした。何て聡明でいらっしゃるのでしょう。一生お仕えするのは慶太ぼっちゃん以外にありえません」



 今度は涙ながらに喜んでいるダニエラさん。百面相の様にコロコロ表情が変わって本当に面白い人だよねぇ。


 しかも、膝枕状態になっている僕の顔をぎゅーって抱き寄せてくれて、もう、ダニエラさんの胸にぎゅーって、そう、ぎゅーって。


 もう! ダニエラさんも結構なお姉さんだから、結構な事になってて、もう、僕の方も結構な事になっちゃうよぉ。



「そうなんです。結局人員をそこまで投入し、貴重な潜水艦乗組員の命を差し出さない限り、空母打撃群への攻撃を行えないと言う事は、非常にその作戦難度を高めている要因の一つと言えるでしょう。この問題を解決する事さえできれば、恐らく空母打撃群の優位性を覆す事が出来ると言う事なのですが……新しい空母打撃群に代替される様な軍事戦略ドクトリンが構築されるのはもう少し先に……」



 ダニエラさんがそこまで話た所で、僕はツンツンとダニエラさんの太ももを押してみる。



「はい?どうされました?慶太ぼっちゃん?」



 ダニエラさんが愛おしいものを見る様な目で僕を見つめて来るんだ。



「えっとねぇ。僕、別の方法があると思うよ?」



「……えっ?」



 ダニエラさんは、ちょっと驚いた様子だったけど、その後母さんに「もう寝なさいっ!」って怒られるまで、その計画について二人で相談しちゃったんだ。

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