第2話 ショゴスはスライムの先祖


 「私の先祖が誕生、というか造られたのは まだ地球に大陸が無い頃でした」

 「先カンブリア時代?」


 「そうです、地球が氷に包まれた時代がありました。先カンブリア時代・原生代の前期と後期にあった『全球凍結』です。最初の それが終わった後、今からだと……25億年くらい前に私達の先祖は造られました。

 造った者の記憶はありませんが、ある記録ネクロノミコンによるとウボ=サスラという、例の宇宙が生んだ劇薬の1体だとされています」

 「えっと、劇薬のウブスス」


 「まぁ、……そんな感じです。

 ところで、貴女は『エディアカラ生物群』って ご存知ですか」

 「うーん、知らないなぁ」


 「後期の全球凍結が終わった、今から7億年くらい前かな、一気に生物が増えた時期があるのです。それはウボ=サスラではなく、エルダシン(古のもの)と呼ばれる者達が行った行為だとされています」

 「それが『エディアカラ生物群』なのね」


 「そうです。そのエルダシンが、私達を使役した最初の『あるじ』でした」

 「えっ、ウブススじゃないの」


 「違います。ウボ=サスラは『生命』を造ろうとして私達の先祖を創りましたが、それは失敗でした」

 「失敗って」


 「そうです。私達の先祖は、生命体では ありませんでした」

 「でも……」


 「先祖は不活性状態で造られ、代謝機能が無く、繁殖能力も当然ありませんでしたから生物とは呼べません」

 「今は違うよね」


 「そうですね。こうして活性状態にあるので、生物なのでしょう、一応は。

 まぁ、それは置いておいて、私達の先祖を活性化させ、使役したエルダシンは この惑星で生まれた者ではありません」

 「宇宙から来た生命だったんだ」


 「そうです。この宇宙で誕生したという意味では劇薬と同じですが、この周辺宇宙を支配していた一族でした」

 「そのエルダシンは、まだ居るのかな」


 「私の記憶が途切れる前までは、僅かに残っていたようです。彼等は当初 海を、大陸が生成されてからは陸上でも活動したようです。

 あぁ、そうだった。2度目の全球凍結の後、彼等が『カンブリアの爆発』を起こしたとか、先のウボ=サスラではないか、と言われていますが、その辺りは 良く分かりません」

 「……こんなところでもウブススが出て来るんだ」


 「そうですね、でも 地球で生まれた知的生物もいました。フライポプリ(盲目のもの)という、これも宇宙から来たという話ですが、それが捕食していた『円錐状植物のような生物』が地球で生まれています」

 「餌にされてたんだ」


 「ですが 彼等、エルダシンは大きな誤りを犯しました。私達を便利に使い過ぎて、自分達が退化してしまったのです。

 加えて、私達が『知恵』を獲得する切っ掛けを作ってしまったのです。それは 頭脳労働をさせるという大きな誤りでした」

 「何というか、愚かだね」


 「加えて『ミ=ゴ』という、これは とても妙な生物ですが、それが この惑星に来ました」

 「喧嘩になっちゃったのかな」


 「そうです。それに私達の反乱や、例の劇薬である クトゥルー達とも闘いになったと言います。

 あ、そうそう もう1種『イース』とうい種族、これ等は精神生命体というか、別の生物と精神を入れ替える、という方法て侵略して来ました」

 「どの生物と入れ代わったのかな」


 「あの、円錐状生物です。そしてフライポプリを追い払ってしまいました。

 実は、彼等は最初『ミ=ゴ』との精神交換を試みたようですが、あまりの異質さに出来なかったという話もあります」

 「そんなに変なモノなんだミグウ(ミ=ゴ)って」


 「そうです。何も装着せずに宇宙空間を移動出来る生物など滅多にいません。

 それと彼等は『脳の缶詰』を造るのが得意でした。科学的に非常に進歩しており、医術も相応に進歩していましたから」

 「えぇ、『脳の缶詰』って食用なの」


 「食用ではなかったようですが、結構たくさん造ったと聞いています」

 「缶詰を造るのが趣味とか」


 「どうなんでしょうね。

 あ、そうでした。あのフライポプリは滅んでいませんでした。元より視覚のない生物だった事もあり、地底深くに潜んで、逆襲の機会を狙っていたのです。

 そこに私達の反乱が起こり、その混乱の中でフライポプリはイースに乗っ取られた円錐生物を、ほぼ全滅させたそうです。もっともイース本体は、直前に別の生物に乗り移ったとされていますが」

 「ズルいなぁ。で、そのフライポプリはどうなったのかな」


 「地上は放棄して地底に帰って行ったそうです」

 「地上は諦めた、のかな」

 「どうでしょうか。その辺りは知りようがありません」


 「劇薬、クリルルと仲間が来たって言ってたね」

 「はい。確か恐竜時代だったと思います。両生類の時代にもいたという話もあるのですが、全盛期はジュラ紀でした」


 「ジュラ紀って、まさか 恐竜絶滅の……」

 「そうです『菌の種族旧神』が恐竜の絶滅を引き起こした隕石爆弾を投下したのです。そのドサクサに彼等を封印した、と聞いています。

 それが無ければ、恐竜は絶滅まではしなかっただろうと言わられています」

 「酷い……」


 「私達も その機会を利用して、完全にエルダシンから離れる事に成功しました。容易ではありませんでしたが。

 多くが捕まり、殺せないのでが封印されました。

 ある者達は菌やクトゥルー、その仲間や眷属達に従属したと聞いています。

 私の 直接の先祖は、あのナイアルラトホテプに接触しました」

 「えっ、ナラララに」


 「そうです。他に逃げ場所が無くて、とにかく『主人』を見付ける必要があったのです。……軽蔑しますか」

 「いいえ。でも、何でそんなに『主人』を求めるのかが分からないわ」


 「本能、でしょうか。私達を エルダシンは完全な『奉仕種族』に変えましたから。

 しかし知恵を得たため、反逆心が発しました。これは、とても残酷な矛盾です」

 「……」


 「ナイアルラトホテプは奴隷を嫌っていました。そのため私達を拒絶し、今の時代まで眠らせたのです。

 眠っていた期間は、1億年以上だと思われますが、正確には分かりません。

 アレは、本当に悪戯好きで困ります。私達を2種類に分断し、性別を与えたのです。生殖機能が無いため意味はありませんが、可怪しな事に それぞれに性能が変わったのです」

 「性能?」


 「性格、嗜好、特色とでもいうものです。雌性を与えられた私達は、攻撃性が衰え、より依存性が高まりました。雄性を与えられたものは攻撃性が高まったと聞いています」

 「聞いているって、情報の共有が出来るのではないの」


 「性別が異なると出来なくなりました。ナイアルラトホテプとう存在は、本当に変な性能を与えたようで、以前と比べると『奉仕種族』としての本能までが減衰しているようです」

 「良かったじゃない。

 あれ、1億年ってことは、元のソゴスの一族はどうなったの」


 「あれ等は退化したのではないかと思われます。貴女はスライムをご存知ですか」

 「見た事はないけれど知ってはいるよ。淡い水色が殆どだけど、時々 黄色や緑色のもいるそうだね」


 「そう。それこそがショゴスの、私達の先祖が退化したものです。

 私には 彼等を操る力というか、行動を指示する事が出来るのです」


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