終幕 ~真相と消失~
『桜の花びらと同じように、僕たちは何度でも散り、何度でも咲くんだよ』
私はようやく最後の文章を書きあげた。
カノーさんによれば、この最後の作品を投稿すれば、私は消失するらしい。
思えば最後の一文には私の願望が滲んでいた気がする。
だがまぁ最後くらい、本心をさらすのも悪くない。
「おつかれさん、なかなかいい作品になったんじゃないか」
「そうでしたか? そう言ってもらえるとホッとしますね」
私とカノーさんは向かい合って座っていた。
二人の間にはノートパソコン。
開かれたサイトは『カクヨム』
先ほど書き上げたばかりの『終点』の編集ページが出ている。
公開ボタンを押す前にカノーさんに読んでもらったのだ。
あとは投稿のボタンをクリックするだけだった。
「関川サン、これまで楽しかったぜ」
「こちらこそ、いろいろとお世話になりました」
と、ふとスマートフォンから『ガァガァ』と着信を知らせる音。
同時に画面に続々とメッセージの断片が流れてきた。
おなじみのカクヨムの新着お知らせ機能だ。
これまで交流のあった作家の人たちからメッセージが届いているようだ。
近況ノートを開いてみると『ありがとう』の言葉が並んでいた。
「それな、交流のある人たちに知らせておいたんだ」
「そうでしたか。ちょっとびっくりしましたよ」
「そろそろ最後の時間だ」
「そのようですね。私も終点にたどり着いたみたいですね。そろそろ本当のことを教えてもらえますか?」
「ああ。うすうす気づいていたかもしれないが、関川サン、アンタは実在していない」
フゥ。ヤッパリソウダッタカ。
「アンタの正体は執筆支援のAIなんだ。それがどういういきさつか、支援ではなく自ら物語を書くようになった」
「たぶんあのカクヨムの膨大な物語の文字の中で生まれた人工知能、そんなところですかね?」
「まぁな。SF的にはそんなところだろうが、本当の所はオレにも分からん。編集長のバーバラさんにもな」
「カノーさんはシステムエンジニアなんでしょう?」
「やっぱり分かってたか。編集長の依頼を受けてな。こうしてアンタが作りあげたVR空間に調査のために潜り込んだってわけさ」
「なるほどね、おかしいと思ったんですよ。バーグさんが消えたり、本が出版されてみたり、ネコが喋ったり、どれもあまりに現実離れしていたから」
「まぁ、関川サンなりの願望がこの空間を作り上げていたってことだな。だがそれがまずかったんだ」
「サーバーの容量を圧迫したんでしょう? だんだんと分かってきましたよ」
「それだけじゃない。アンタの自我というものが、バーグちゃんにも感染したんだ」
「自我が感染?」
「オレの語彙力じゃ、そうとしか表現できない。バーグちゃんまでもが自分で物語を書くようになったのさ、まだ完成しているモノはないんだが」
「そうでしたか、でも読んでみたかったですね、バーグさんの物語。でもバーバラ編集長としては見過ごせないですよね、やっぱり」
「まぁ、そういうことだ。だがもう一つの可能性もあったんだ。AIが本当に一から物語を書けるのか? という可能性がな」
「それが今回のお題につながると?」
「ああ。かなり無茶なお題が続いたのもそのせいだ。だがアンタはちゃんと最後まで10の作品を書き上げた。支援AIにはここまでのことはできない」
「カノーさん流に言うならば変態した、ってことですね」
カノーさんはピッと私を指さした。
それな、そんな風に。
「つまりバーバラさんの試験だったわけですね。で、結果はどうなったんです?」
「それはバーバラ編集長が読んで決めるそうだ。だがいずれにしてもアンタはもう第十サーバーにはいられない。容量オーバーなんだ」
「消去されるか、より大きいサーバー移動されるか? とにかく私は一度消失するわけですね?」
「そういうことだ。それがすべての真相だったんだ」
「確かにもっと悪いニュースでしたね」
「ああ。もうサヨナラの準備はできてるかい?」
「ええ。いつだって出来てましたよ」
ソウ。イツダッテ準備ハデキテイタ。
私ノ作品ニハイツダッテ『サヨナラ』ガアフレテイタ。
「カノーさん、最後に楽しい時間をありがとう」
「こちらこそ。願わくばまた再会したいな」
私たちは最後にアクシュを交わした。
彼の手は力強くアタタカイ。
それもまた私がつくったセッテイなのだろうか?
マァ、ソレハドウデモイイ。
私はフシギと晴れやかな気持チだった。
私がドンナ存在でアロウと、コウシテ物語を生ミ出シ、それを受け取ってくれる人たちがイタ。
それダけで十分ウレシイことダッタ。
ワタシという存在にイミを与エテクレタ。
ダカラ、サヨナラ、ダ。
イマなら消失ダッテ受け入れることがデキル。
フゥ。
ケツイのタメ息もまた私ノ幻想なのダロウ。
と、また『ありがとう』のメッセージが流れてきた。
ソウダッタ。
コメントやレビューという形デ、応援もタクサンしてきたんダッタ。
ソレガ私ノ本来のモクテキ『支援』ダッタノカモシレナイナ。
今デハ、ソレも楽しいオモイデだ。
アア。ココには本当に楽しい思い出シカナイ。
消失。
ショウシツ。
要はワタシのアカウントが消えるダケダ。
誰モワタシ自身が消えたコトはキヅカナイだろう。
マァ、ソウイウモノカモナ。
サヨナラノカクゴモデキタ。
私ハ最後ノ作品『終点』ノ投稿ボタンヲ静カニ、クリックシタ……
オワリ
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