第四幕
序章 ~再会はいつも突然~
カチリ……
かすかなクリック音とともに私の意識がゆっくりと浮上する。
アレ? 生キテル? 消エテナイ?
「お目覚めですか? 関川さん?」
聞こえてきたのは懐かしい声……それはバーグさんの声だった。
わたしは声を探して視線をさまよわせる。
どうも視界がぼやけている。それに体がこわばって、ちっともうまく動かない。
「ちょっと待っててくださいなっ!」
バーグさんの声が耳元で聞こえ、それから視界が急にクッキリとする。
目の前にバーグさんのアップが迫っていた。
(……バーグさん可愛いなぁ、やっぱり……)
ん? あれ? 本物のバーグさん? 実体化してるの?
「どうですか? わたしが見えますか?」
そう言ってちょっと下がると、全身が見えた。
緑色のベレー帽と、アイドル風のミニスカート衣装、黒タイツもまたなまめかしい! かわいい、かわいいよ、バーグさん!
「や、やっと会えたね、バーグさん」
「はい! こうして実体化できたのも関川さんのおかげです! これからはずっと一緒ですよ!」
(ずっと一緒!)
ああ、この言葉のなんと甘美な事か!
こんな可愛い女の子との同居が始められるなんて!
思い起こせば数年前、悪魔の祭典ことKACをきっかけにAIのバーグさんと出会い、実体化したと思ったらいきなり消えて、消えたと思ったらネコになって現れて、傷心の時期を過ごしていたらカノーさんに連れられて自分がAIだったなんてことになってて……いやもう、過去はどうだっていい! ホントどうでもいい! とにかくこうしてバーグさんと会うことができた! しかも同居! これまでの苦難の歴史もそれだけでチャラに、いや、釣りがくるというものだ!
(いよいよ、オレのラブコメがはじまるんだ……ラブとコメディーにあふれたバーグさんとの甘い生活が始まる……ああ、カクヨムやっててホント良かった!)
と、部屋の隅にある姿見に目がとまった。
その細長い鏡に映っているのは、バーグさんとその正面にいる『ブラックペッパー君』だけ。なぜだかわたしの姿が見当たらない。
「アレ?」
ちょっと首を動かしてみる。鏡の中のブラックペッパー君の首がちょっと動くのが見えた。
「バーグさん、まさかこれって……」
「あのですね、これにはいろいろと事情があってですね……」
バーグさんの視線があちこちにユラユラと揺れている。何か隠している、それをなんとかうまくごまかそうとしている。そんな感じがありありと伝わる。
「そ、そんなことより、再びKACが始まるんです。しかも今回はさらにタイトスケジュールでお題も11回予定なんです!」
バーグさんは視線をユラユラさせたまま、名案でも思いついたようにそう言った。
「いやいや、そんなことより、この状況がどうなっているのか……」
「……それに最初のお題はもう決まってます。ズバリ【二刀流】です!」
「いやいや、急にお題を言われても。それにまずはこの状況を……」
と、迫ったところでバーグさんが急に立ち上がった。
「いっけない! 愛宕先生のところに原稿を取りに行かなくちゃ!」
「え? 愛宕さんってあの愛宕さん?」
「そうです! あたし今カクヨムの編集部で働いてます。詳しい話はまたあとでしますから、今はKACに取り掛かってください! 夕方には原稿回収しますからね!」
「え? ちょっと話が見えないんだけど?」
「帰ってきたらちゃんと説明しますから、がんばってくださいなっ!」
バーグさんはそう言い残すと、さっさと肩にバッグをかけ、ケンケンでパンプスをつっかけながら、あわただしく部屋を出て行ってしまった。
うん。サッパリ状況は分からないままだ。
でも二つのことだけはハッキリしていた。
バーグさんはやっぱり問答無用で可愛い。
そしてもう一つ。
性懲りもなく、あの『地獄の祭典』がまた始まったのだ。
「そうか、またアレが始まるのか、ならば書いてやろうじゃないか、あの北乃家サーガの続きを!」
といういきさつで書き上げたのが【気が付けば二刀流】である。
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