幕間 ~実在した館~


「さて、ようやく半分ってとこだな」


 そう言ったのはカノーさん。

 私はまたカノーさんの運転するテスタロッサの助手席に納まっている。

 行先はまだ分からない。


「今回もまた無茶なお題が続いてますからね、ホント大変ですよ」

「そうそう、関川サン、そろそろ敬語は止めていいぜ、丁寧語だっけ?」


「なんか口癖なんですよね、この喋り方は」

「まぁ喋りやすい方でいいって話さ」


「ところでどこに向かってるんですか?」

「オレのホームさ……なに、すぐにわかるよ」


 それから車は緩やかな山道を登ってゆく。

 つづら折りになった道を、幾度もの急カーブを曲がる。

 段々と高度が増してゆくのが分かる。


「もうすぐ到着だ」


 最後のカーブを曲がると、その高みのてっぺんに、いきなり石造りの古城のような館が現れた。その威容がみるみる大きく迫ってくる。やがて車は速度を落とすと、槍で組み上げたような鉄門扉の前でとまった。

 チリチリとエンジンが冷えていく音が聞こえる。


「まさかここは……」

「そう。ここがオレのホームさ。『変態の館』にようこそ、関川サン」


 かー、やっぱりかっ!

 これがあの有名な『変態の館』か!

 しかも実在していたとはっ!


 いったいどんな人たちが集っている事やら……


「まぁ話はあとだ。そろそろ次のお題が発表される頃だぜ」


 鉄門がオートでゆっくりと開き、車は静かに館に入っていった……


    ●


 館の中は荘厳の一言だった。

 高い天井、天井を支える柱は大理石造り、さらに二階へと続く大理石造りのアーチ階段。ついほえーっと見とれてしまう。


 そこから案内されたのはやたらと長い机があるダイニングホール。

 精緻な彫刻が施されたイスが行儀よくきっちりと並んでいる。

 まるでハ〇ーポ○ターのようだ。


 そんな巨大な大広間だが、私とカノーさんはその片隅に固まって座った。


「さて、次のお題だが……」


 カノーさんはそれを読み上げようとして、パチリとおでこを叩いた。

 なんかまた嫌な予感がする。


 無言のままクルリとPCの画面を向ける。


【私と読者と仲間たち】


 ……これが次のお題、頭を抱えるのも分かる。


「コレって、なんかすごく方向性を感じますよね?」

「だよな。アレだろ? 読者の皆さん感謝してますよ、作家仲間のつながりは素晴らしいです、とかそういうの」


「ですよねぇ。その上でカクヨムさんに登録して良かったですっ! みたいな」

「そういうのを書かせたいって下心があからさまだよなぁ」


「ですよね、このお題じゃそういう方向でしか書けないですよね」

「あいつらホント節操がないというか、なんというか」


「これを北乃家縛りで書くのがまたハードル高いというか」

「でもまぁ、素直には書かないんだろ?」


「まぁそうですね、敢えて違う方向に書きたくなりますね、私の場合」


 ……といういきさつから書き上げたのが続く『コモリ君と秘密の読者とその仲間たち』である。


 勢いで書き上げたのだが、実はこの作品が一番よく書けたのではないかと思っている。

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