㉑【コモリ君と秘密の読者とその仲間たち】
久しぶりにあのページが更新された……
ページと言っても紙の本ではない。
僕がずっと追いかけている、とあるブログのページのことだ。
○
ブログの書き手の名前は【コノハナ】さん。
プロフィールによると歳は中学二年生。
つまりは14歳くらいの女の子が書いているブログだ。
○
その前に一つだけ誤解を解いておこう。
僕は
きわめて健全な社会人である。
誤解があるといけないので、ココだけは最初に宣誓しておこう。
○
さてこのブログのタイトルはこう。
【~コノハナのシークレットガーデン~】
多感な年頃である彼女が感じた日々のアレコレを、彼女独特の表現で日記風に記してあるのが特徴だ。
そして僕はこのブログが開設された時から、ずっと読み続けている。
○
ちなみに彼女の読者は全部で5人。
開設当初からこの数字は変わっていない。
ネットの広大な世界では注目されるのも難しいのだろう。
それにこのブログ、もともと人に読ませるためではなく、あくまで自分のために書いているようだった。
タイトルの示す通り、彼女にとっては秘密の庭なのだろう。
そして一般受けしないような、すごく個性的なページでもある。
○
さて、今回更新されたページの内容はこうだ。
○
~~ きょうのできごと ~~
幾重にも重なりし打ち捨てられた穢れの頂
仲間の屍の中に巧妙に擬態せし双頭の毒蛇が潜む
毒蛇が纏いし腐臭はあまりに危険な死の香水
それが彼の望むものでなかったとしても
穢れてしまった悲しい理由があったとしても
それでも五感が拒絶する 全身の細胞と感覚が拒絶する
双頭の蛇はやがて柔らかなアギトに引きずり出される
その呪われし体が新たに転生されるために
冷たい混沌の渦の中へと解き放たれる
○
今回もまた難解な詩だった。
毎度のことながらよく分からない。
だが今回は特に不気味な言葉が並んでいる気がする。
○
「おお、コモリ君そこにいたのかい」
と言って庭先の縁台にやってきたのは『北乃さん』である。
最近手に入れたスマホの画面を見ている。
「お義父さん、今日はいい天気になりましたね」
「まったくだ。ところで見たかい? 今回のコノハナさんのブログ」
そう。北乃さんも、僕と同じく『コノハナさん』のブログの読者でありフォロワー仲間なのである。
○
「ところでサクヤちゃんは?」
「娘なら今日は部活ですね。大会が近いんで日曜日も練習だそうです」
「そうか、それはかえって好都合だな」
「ですね。ちょっと今回は気になるというか」
「そうだねぇ、なんか言葉の感じがみんな暗いんだよね」
「ええ、ケガレとかシカバネなんて、なんだか死を連想させますもんね」
○
と、そこにもう二人の読者であり仲間が加わる。
「ああ、いたいた。ここにいたのね」
やった来たのは妻の『三奈』とお義母さんの『かな子』さん。
そう、ここにいる全員が『コノハナ』さんのブログの読者である。
「ねぇサクヤになにかあったのかしら? 学校でイジメられたりとかしてるんじゃないかな?」
「ちょっと心配な内容よね」
「キミはどう読んだ? ミステリー好きならこういうの得意じゃないか?」
○
ちなみに……
もうお分かりだろうがブログの『コノハナ』さんというのは、娘の『サクヤ』のペンネームである。
つまりはコノハナサクヤ姫、うん。分かりやすいペンネームだとおもう。
そして彼女が更新するブログの読者は僕たち家族で全員なのである。
ちなみに最後の一人は祖母の『ハナさん』である。
○
「そうですね、気になるのは『仲間』と『屍』のキーワードですね。『双頭の蛇』が何を意味するか分かりませんね」
「死の香水、なんて言葉もなんか怖いよね」
「拒絶と、転生の組み合わせもなんか胸騒ぎがするわね」
「まったく我が娘ながら……もっと分かりやすく書けばいいものを。まぁあの子はちょっと感性が独特だから」
「それはたぶんハナさんに似たんじゃないですかね?」
○
なんて言葉を交わしていたら、その『ハナさん』がやってきた。
「あらあら、みんな揃って。そうだ、サクヤちゃんのページ見た?」
とハナさんはニッコリと笑ってそう言った。
僕たちはなんだか嫌な予感しかしなかったから、なんかみんな暗いムードだったというのに。
「ちょうど、今、そのことについて話していたんです。なにかいじめとかにあってるんじゃないかって」
と、ハナさんが不思議そうに首を傾げた。
○
「あ、ひょっとしてあの詩の意味、分からなかった?」
「え? お義母さん、分かるんですか?」
と聞いてくれたのは北乃さん。
そして僕たちは興味津々で答えを待つ。
まるで探偵が名推理を披露するのを待つように。
○
「簡単よ。アタシすぐわかったわよ」
と、ハナさんが解説してくれた、というか翻訳してくれた、その文章を以下に載せよう。
○
幾重にも重なりし打ち捨てられた穢れの頂
(洗濯物の山の中に)
仲間の屍の中に巧妙に擬態せし双頭の毒蛇が潜む
(靴下が紛れ込んでた)
毒蛇が纏いし腐臭はあまりに危険な死の香水
(その靴下がすごく臭い)
それが彼の望むものでなかったとしても
(まぁ父さんのせいじゃないとは思うけど)
穢れてしまった悲しい理由があったとしても
(働いてくれてるんだから仕方ないけど)
それでも五感が拒絶する 全身の細胞と感覚が拒絶する
(それでもやっぱり臭いよ この臭いはムリ)
双頭の蛇はやがて柔らかなアギトに引きずり出される
(洗濯ばさみでつまんで)
その呪われし体が新たに転生されるために
(とりあえずこれだけ洗ってしまおう)
冷たい混沌の渦の中へと解き放たれる
(洗濯機の中へポイ)
○
「なんだか色々と泣けてくるね」
と北乃さん。優しく肩を叩いてくれた。
「ハイ、なんだか複雑な心境です」
おわり
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