幕間 ~事件の鍵を握る男~

 目覚めると知らない男がいた。


「いやぁ、まさか、嘘だとは思わなかったぜ」


 男は私の机に座り、持参したノートパソコンを開いていた。

 歳は30代後半か40代に差し掛かった辺り。

 きちんとスーツを着ているが、大ぶりのサングラスをかけていた。

 部屋の中は薄暗いというのに。


「あの、ここは私の部屋なんですが?」


 私は恐る恐るそう話しかけた。

 まぁ間違って部屋に入ってきた可能性もあるかもしれない……まぁナイとは思うけど。


「分かってるよ関川サン、まぁ座りなよ。コーヒーを入れておいた」


 男はそう言ってズズッとコーヒーをすすった。

 そして彼の前には私の分のコーヒーがマグカップに入れてあった。


 まぁ雰囲気からして危ない人ではなさそうだった。

 それになんとなく親密さを感じた。初対面だというのに。


「ホント騙されたよ『ジカミ』、信じちゃったぜ」

「ああ、あれですか。もう思い浮ばなくてでっち上げにしたんです」


「さすがにあの展開は予想外だった。注釈がなければ騙されたままだったぜ」


 そう。あの作品のポイントは『直観』をジカミとでっち上げるところにあった。

 そしてミステリー界では有名な言葉、というのもポイント。

 大抵の人は『有名ですよ』『みんな知ってますよ』という嘘に引っかかりやすいものなのだ。


 でもそんなギミックを考えるのはとにかく楽しかった。


「まぁ物語ってのは詰まるところ『でっち上げ』をさも本当のように語ることだからな」

 その男はニッと笑ってそう言った。


 たしかにその通り。

 同時に私は確信する。

 この男もまた物語を書く人間なのだと。


「さて、早くも次のお題が出てるぜ」


 男は自分のノートパソコンをクルリと私に向けた。

 おなじみのカクヨムのサイト。

 次のお題は……


「なんですか、コレ?」

「なんだろうねぇ?」


【「ホラー」or「ミステリー」】

 画面にはそう映し出されている。


「これはただのジャンル指定じゃないですか?」

「前にもこんなのがあったよな」


「それにコレ、どっちか書けってことですかね? それとも両方?」

「そこも含めてのお題なんだろうぜ、好きに書けってことじゃないか? 知らんけど」


 もうため息しか出ない。

 いや、ため息も出ない。

 なんなのこのお題?

 過去にもずいぶんと無茶お題はあったけれど、今回は尚更ひどい気がする。


「まぁどちらにせよ、アンタは書くしかないんだろ?」

 その男はコーヒーを飲み干して立ち上がった。

「……バーグちゃんを取り戻すためにな」


「どうしてそれを? そもそもいったい、あなたは誰なんです?」


「オレか?」

 男はそう言ってスチャッとサングラスを外した。

「オレの名はヨシタツ、カノーヨシタツだ。一緒にバーグちゃんを取り戻そうぜ!」


 その正体に私は驚いた。

 カノーヨシタツ……カクヨムではその名を知らないものはいないアイドル作家だ。

 これまでもやり取りはあったのだが、まさかの本人登場はさすがに予想外だった。


「でもまぁその前に、次のお題を書き上げなきゃな。二時間で書き上げな、話はそれからだ」    


(二時間……ってまた無茶な)


 ……と急いで書き上げたのが、続く『ホラーとミステリーの小冊子』である。


 なんとホラーとミステリーの両方を混ぜ合わせた意欲作である。

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