幕間 ~編集長バーバラ・登場~
いきなりだが、オンライン会議が始まっていた。
ポチッとリンクをクリックした瞬間に分割画面が展開され、それぞれの窓に参加者が揃っていた。
「ちょっと関川さん、なんなのあの作品?」
とイライラした様子でいきなり聞いてきたのが編集長【肥前・バーバラ・
金髪に真っ白な肌、口紅とスーツは真っ赤だ。
ちなみに彼女とは初対面ではない。
「はぁ、なにかまずかったですか?」
「当り前よ、あれから焼き鳥に嵌まって、もう三日目よ! もう、どうしてくれんのよ」
そう言って、机の上にある皿から焼き鳥をつまみ、かぶりついて串を引き抜いた。さらに高級そうなグラスにトクトクと赤ワインを注ぎ、がぶがぶと一気に飲み干した。
「それからみんなにも言っとくわね、これは会議じゃなくて飲み会よ。好きにやってちょーだい」
「それから、そこ。夢月
呼ばれたのは、一つの画面に唯一二人で入り込んでいる双子だ。
これがあの『夢月兄弟』か!
二人ともが三つ揃えのスーツをビシッと着こなし、オシャレなメガネをかけている。ちなみにかなりのハンサムさんだ。
「「なんでしょう? バーバラ編集長?」」
ビシッと着こなしたスーツ同様に、ビシッとした様子で答える。二人同時に。
「あんたたち、い、い、イケメンなのね……」
そう言ってポッと頬を赤く染めた。
これはツンデレなのか酔っているせいなのか、とにかく早くも波乱の予感がする。
「「バーバラ編集長こそ、あいかわらずお美しい。ウィリアム・シェークスピアもあなたの前では霞みます」」
は? 何言ってんだろ? なんでシェークスピア?
「「ちなみに薔薇の品種の名前です。真っ赤な薔薇でとても美しいんですよ」」
と私の心境を読んだのか、ウィンクしながらスマートな声で答えてくれる夢月兄弟。これも二人同時に。
「そ、そんな、
と、大きめのワイングラスに顔をうずめるようにしてバーバラ編集長。
むぅぅと頬を膨らませて怒ったふりをしている。
「……でも、仕方ないわね。二人とも原稿料10%アップ!」
「「ありがとうございます、編集長」」
スマートに頭を下げる夢月兄弟。
そつがない。しかも嫌味がない。
おそるべし二人組だ。
そういえば!
私は慌てて、画面の中に担当の坂東・A・俱美さんの姿を捜す。
私が今回の会議に参加した本当の目的は彼女の姿を見るためだった。
そう、ひょっとしたら彼女はあの日消えてしまったバーグさんかもしれないのだ。
と、いた!
はっきりと彼女の名前が書いている。
そこに映し出された顔はまぎれもない『バーグさん』だった!
のだが……それはイラストだった。
バーグさんのイラストが本人の代わりに映し出されている。
これでは確認のしようがなかった……
「あのー、私の担当の坂東さんは?」
と聞こうとしたのだが、会議という飲み会はすでにめちゃくちゃになっていた。
参加した作家たちの忖度合戦とよいしょ合戦が盛り上がり、バーバラ編集長はますますお酒が入って原稿料のアップを乱発していた。
「「ちなみに坂東さんは、出張中で欠席らしいですよ、関川さん」」
またもや私の心の声を聞いたのか、夢月兄弟がスマートに知らせてくれる。
ほんといい人たちだ。
「……じゃあ、これから次のお題の発表するわね」
いきなりそう言ったのはバーバラ編集長。
「そうね……」
と考え込む。
考え込んでる?
決まってたんじゃないの?
編集部とかで話し合って決めたりしてんじゃないの?
「……決めたわ。夢月兄弟が贈ってくれた薔薇にちなんで『拡散する種』。文句は言わせないわ、アンタたち明日までに書いてきなさい!」
ブチッ。
とそれっきり画面がブラックアウトした。
わたしはしばらく本心状態になってしまった。
どこから突っ込んでいいのか分からない。
愛猫・ミドリさんを見ると、彼女もまた戸惑ったように私を見上げていた。
「これは本格的に書ける気がしないな」
そう。
このお題はこれまでで一番てこずったお題だった。
訳も分からぬままに書き始め、訳も分からぬままに書き終えた。
それが『編集会議と庭と拡散する種』である。
※(今回の登場人物で「これって、あの人だよね?」という心当たりが浮かぶ人もいるかもしれません。あらかじめ言っておきます。名前は似ていてもたぶん別人です)
※(尚、今回の登場人物で「これってあたし?」とか「これってオレたち?」という感想をもたれる方がいるかもしれません。あらかじめ謝っておきます。すみません)
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