第6話 66
66
どれだけの時間がたったのだろう。
大樹は巫女を介して、人というものを楽しんだ。
目を楽しませる彩り。
耳を楽しませる囀り。
舌を楽しませる貪り。
人の楽しみに興味を覚え、舞や歌さえも所望するようになった。
その分、捧げ物は豪華になったが巫女の負担は随分減った。
三人の特別な巫女は美化された伝説として語り継がれてる。
しかし、祭司は次の要求を恐れた。
いつか、また誰かが犠牲になる日が来るかもしれない。
もう誰も始まりを知る者がいない中で儀式は続く。
幾世代か超えて、親子が同じように楽しむ収穫祭となっていた。
歴代の巫女と祖先を讃え、過去に感謝する日となっていた。
そして、栄えある未来を思う。
誰も明日の許しを請うていたことなど忘れていた。
何代目かの巫女は一族から今年初めて選出された。
賛美を浴び、名誉に浴し、誇りを持つ巫女。
収穫祭で大樹を寿ぐ使命を疑わない娘。
舞や歌を学び、楽の音と己の役割に思いを馳せていた。
村は発展し随分と立派になった中、今年も収穫祭が始まる。
村長の宣言、楽の音が響き渡る。
仕込み終えたばかりの新酒が皆に行き渡る。
子供も大人も今日のための特別な食べ物に歓声を上げる。
今年の苦労や喜び、先祖の歴史や未来の抱負を皆が語る。
良い年であったことを確認し、来年へを思う。
その中を巫女が森へと送られ、村人は見送る。
大樹は満足していた。
人の楽しみを知り、今日の宴は楽しかった。
楽しかった。
楽しかったが、飽いた。
さて、どうしたのものだろう。
巫女たちの奉納を眺めながら考えた。
この上は外に出るよりないだろう。
お前の体を
お前と一緒に
外に出てみようではないか。
大樹は巫女の体を奪った。
巫女は大樹を飲み下した。
どちらだったかは分からない。
確かなのは大樹が外に出たということだ。
大樹の体はそのままで、誰も気づいてはいない。
巫女は静かに奉納を終えて、村へと帰る。
さて、楽しみだな。
ああ、なんと不安な。
外で何をしようか。
悟られないだろうか。
今の己は何だ。
混濁する意識。
大樹はいつか己の罪と後悔を知るだろう。
巫女はきっと犯した経験の重みを感じる。
森は変わってしまった。
永遠に。
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