第3話 16

16


収穫祭の儀式は続けられた。

さらに妹へ或いは親族へ巫女は受け継がれていく。

やがて、娘の時代へとなる。

娘は巫女であった母から初代である叔母の話を聞いて育った。

大樹に寿がれ美しく成熟していく様を聞いた。

お前も巫女になり、大樹に迎えられるように。

母の焦がれる姿を見て育ち、歴代の巫女が祝福する。

私も立派に役目を果たし、迎えられたいと願った。

収穫祭は待ち遠しい。


村は豊かになり、儀式の煌びやかさは年々増していった。

大樹の恐ろしさなどは、すでに過去の不幸な思い出に過ぎなかった。

収穫祭により皆から祝福され、名誉と誇りと期待を胸に森へ向かった。


名残惜しいが、温かいものも冷えてしまうのだな。

ありありと思い出せるが、もう終わってしまった。


けれど、次の巫女が許された儀式の道からやってくる。

暗い森に飲み込まれ、恐れるでもなくやってくる。

たどり着いた巫女は叔母を見て、やはり美しいと思った。

大樹に搦めとられ、最も美しい姿のままなのだろうと。


溜息を一つ吐き、胸に喜びと祈りを満たし、腕に祈りと期待を込めて大樹に縋り付く。

大樹は枝を伸ばし、巫女は悦んだ。

自分もあの様に抱かれ包まれるのだ。


お前はあれとは違う。

だが、それも良いだろう。

お前は違うものをくれ。

そう、それが良いだろう。


大樹は巫女の耳を奪った。


そら、聞かせておくれ。


巫女は奪われた苦痛と喪失感と裏切りに絶望した。

美しい叔母の瞼が開き、怖ろしい虚ろが巫女を覗き込む。

何もかも偽りだった、裏切ったのは騙したのは誰だ。

後悔と怒りに叫び、苦痛と絶望に呻く。

全ては一瞬にして裏返り、何もかもを呪った。


お前は面白いな。

娘よ、もっと聞かせておくれ。

疲れたらゆっくり眠るがいい。

日が落ち、日が昇り、また聞かせておくれ。

まだ、始まったばかりだよ。


母は何も知らぬまま、それを喜んだ。

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