9 解放

 入院生活はある意味有意義な時間だったと言えるかもしれない。

 ルークからは魔術を学び、シドさんにはこれから強くなる為のきっかけを作って貰えた。

 入院に至るまでの過程などを考えるとネガティブな考えばかりが浮かんでくるが、そう考えると不幸中の幸いだったと思える。

 不幸中の幸いだと思わせてくれるような、人間関係に恵まれたと言える。

 ……色々あった後だけれど、そういう点で俺は本当に恵まれていると思う。



 ……さて、そんな風に二週間程続いた入院生活も今日で終わり。


「長かった……これで自由だぁ!」


 無事自宅療養タイムに突入である。


「テンション高いな。なんか刑務所から出所したみたいな感じするぞ」


「いや刑務所扱いは色々申し訳ねえよ。先生の腕は良いし同室の入院患者にも恵まれてた訳で……ただなんとなくご飯の味が薄いし、それに二週間病院から出られないのは辛い。あとご飯の味が薄いし……ご飯の味が薄い」


「三回位同じ事言ってますよクルージさん……」


「どんだけ辛かったんすか……言ってくれたら簡単な物作って持ってったっすよ」


「……言えば良かった」


 そんな会話を交わしながら、俺の退院時間に合わせて足を運んでくれたアリサとリーナ。そしてグレンと病院の敷地を出る。

 ……そういえばこの入院生活の中で特筆しておかなければならない事が、同室の入院患者の話以外にもう一つ。


「じゃあ次入院した時は遠慮無く言うっすよ」


「次ってリーナさん、そんな入院する事前提で話進めないでくださいよ退院したばかりなんですから……あ、でももしも……まあ仮にそういう事があったら、その時は遠慮なく言ってください。ボクだって何か作ってきますから!」


「あ…………うん、ありがとな」


「……そんな入院患者増えるみたいな表情で頷かないでくださいよ」


「そうっすよ。もう二週間。二週間も経っているんすよ。それだけあれば人間は成長するっす。もうなんとか辛うじて危なげないっすね」


「俺さ、もう入院なんてしなくて済むように頑張るよ」


「その意気っす!」


「な、なんか素直に頑張れって言いにくいですね……」


 こういう風に普通に会話が成立するようになった。

 入院してすぐの時に何故か凄い距離感を感じて無茶苦茶焦ったけど、あれ以降徐々に元の感じに戻って行った。戻って行ってくれた。

 たまに妙な空気になる事もあるものの……まあ、とりあえず良かった。

 ……本当にあの時は一体何があったんだろう?

 グレン達は何か勘付いていた感じがするけど、全く教えてくれないし……見当も付かない。


 ……正直その答えが気にならない訳ではない。

 無茶苦茶気になる……気になるけど。

 ひとまず元通りになったのなら、もうそれは良いだろう。

 とにかく今はそう思う事にした。


 今はようやく本格的に戻ってきた日常に意識を向けていきたい。

 ……いや、まだ日常と言える程定着はしていないか。


 これから日常にしていきたい今をちゃんと歩いていく為に。

 まずは出来るだけ前を向いて歩いていこうと思うよ。





 ……いや、気にはなるけども。 

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