8 おめでとう

「おう、まあ一日程度で目に見えて良くなったりはしてねえけど元気だよ元気」


 とりあえず二人に対して笑顔を作ってそう言ってみるが……なんか様子おかしくないか?

 なんだろう……こう、絶妙な距離感を感じるんだけど。


「えーっと、二人共なんかあった?」


「あ、いや、何もないですよ、何も……」


「そうっすね……うん、何もないっす」


「とりあえず元気そうで良かったです」


「そうっすね……」


「……?」


 なんかあんまり目を合わせてくれない……なんで?

 ……まあいいや。良くないけど。

 ……いや、ほんと良くないんだけど、うん。

 とりあえずは、いいって事にしておこう。


「そ、そうだ、アリサかリーナのどっちかは分からねえけど、忘れ物とかしていかなかったか?」


「あ、ボクです」


「今日はお見舞いついでにそれ取りに来たんすよ」


「そこの棚の上に置いてあるから持ってってくれ」


「はーい」


 そう言ってアリサが忘れ物を回収した所でリーナが言う。


「って、グレンさんは分かるんすけど、お二人はどうして此処にいるんすか?」


 そう言えば昨日アリサとリーナが帰った後に二人が戻ってきたわけだから、事情把握してないんだよな。


「僕達二人も入院していたんだ」


「まあしていたってのはシドの兄貴だけで、俺は現在進行形で入院中ですけど」


「へぇ、そうなんすか」


「ちなみに何があったんですか?」


「実は――」


 二人に問いかけられる形でまずはシドさんが。それからルークが答え、そこにアリサとリーナが相槌を打っていく。

 ……うん、俺の時に感じた距離感とかぎこちなさが全く感じられない。

 なんで?


「そういえば二人共。クルージには先に言ったがう、工房を格安で借りられたんだ」


「え? 昨日の今日じゃないですか!」


「いやいや、物件借りるのなんて例え安く出てても安い買い物じゃないんすから……ちなみにどんな所借りたんすか?」


「えーっとだな――」


 うん、グレンとの会話もいつも通り。

 ……なんで?


「ちょ! それ完全に事故物件じゃないっすかぁ!」


「安いからってそれはないですよ! せめて……こう、誰かに相談しましょうよ!」


「いや、大丈夫だって大丈夫。心配すんなって」


 ……お前ら三人共に。約一名違う意味だけど聞くよ。

 ……マジでなんで?


 と、なんだか意味の分からない状況に立たされながらも若干の時間が経過して一通り話が終わり、改めて視線は俺の方へ。

 ……向いてるんだけど、二人共中々話しかけてこない。

 というかなんで視線反らすんですかね?


「「あ、あの!」」


 そして偶然にも二人同時に声を出す。


「あー」


「えーっと……」


「……」


「……」


「「どうぞどうぞ」」


 そう言って二人して会話を譲り合う。


「……」


「……」


 そしてどっちも来ない!

 そして視線どっち向いてんの!?

 壁!? 床!?


 ……ちょっと待て。もしかして二人共俺と話したくなかったりする感じか?

 え、いやいや、昨日までそんな事なかったじゃん! それは無い。それは無い気がするけど……無いよね?

 いや、あるのか? あるのかもしれない。どっち?

 お、俺何かしたっけ?


「き、昨日の今日じゃやっぱり駄目だ……」


 アリサがボソリと掻き消えそうな声で何かを言ったけど、こっちもてんぱってて何も聴き取れねえ!

 なんだ、き、聞き返した方が良いのか?

 と、思った次の瞬間。


「ぼ、ボクちょっと急用思い出したんで、今日はこれで失礼します!」


「え!?」


「お、お大事に!」


 そう言ってアリサは逃げるように病室からいなくなってしまう。

 そして間髪空けずに。


「せ、先輩! ま、また来るっす! 来ても大丈夫そうになったらまた来るっす!」


「ちょ、お前まで!? つーか大丈夫そうって何!?」


「お大事にっす!」


 そう言ってリーナまでもが居なくなる。

 居なくなって、意味が分からないまま取り残される。


「えぇ……」


 何、なんだったのマジで。


「おい大丈夫か? なんかお前のベッド周辺だけ通夜みたいな空気流れてんぞ」


「いや、だってほら……なあ、俺何かしたっけ? もしかして俺知らない内に何かして二人に嫌われた?」


「あ、いや、それは無いと思うんだが」


 悩む素振りを見せながらも、どこか楽しそうなグレン。

 ふざけんなこっちは真剣に悩んでんだよぶっ飛ばすぞ。

 なに笑とんねん。


 と、そこでグレンが何かに思い至ったような表情を浮かべ、俺とシドさんにルークとそれぞれ視線を向けた後、ルークのベッド付近にシドを手招きする。

 そこで何やら俺に聞こえないように密談。


 何話してんだこんな大事な時に。

 俺も混ぜろよ。


 と、やがて三人が同時に言う。


「「「あーなるほど」」」


 ……何が?


 そして状況が理解できないまま、三人がこちらの方を向く。


「まあアレだ。とりあえずお前は嫌われてる訳じゃねえし、向こうも色々と慣れてくればある程度元通りな感じにはなると思うから心配すんな」


「慣れるって何に?」


「えーっと、俺的には危惧している状況に大幅に前進しているんですけど、まああなた的には結構大躍進している訳で……寧ろこう……おめでとうございますでいいんですかね?」


「いや知らねえよ」


「Congratulation」


「俺は一体何を祝われてるんですか?」


「「「Congratulation」」」


「お、おう……ありがとう」


 何に対してなのかは分からないけど、とりあえずありがとう。

 ……いや不安ばかり大きくなるんだけど!

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