103 故郷に最後のさよならを

 翌朝、リーナが作ってくれた朝食を食べた後、俺達は早速村を出る事にした。

 村の入り口には連中が何人も見送りに来ている。

 事に当たってくれた冒険者の見送りという事もあるだろうけど、一番大きいのはグレンの見送りだろう。

 俺を庇ってくれているから不信感を覚える奴らもいる。それでもグレンの為に金を用意してくれるような連中だから、当然見送りに位は来るだろう。


「……」


 俺はというと馬車の中で待機だ。

 そうしてないと空気が悪くなる。連中にとっても俺にとってもこの方が良いだろう。どうでもいいけど。

 そしてしばらく三人を待っていると、やがて一足先にアリサとリーナが馬車へやって来る。


「お待たせしました」


「グレンさんとの話はもうちょっとだけ長引きそうっす」


 そう言いながら二人は馬車に入ってくる。

 どんな事を話していたのか。

 そんな事は俺からは聞くつもりはなくて、二人からも話題に出すつもりもないようだ。

 きっと二人も俺があまりそういう話を聞きたくないのは察しているのだろう。そもそも俺に話せないようなろくでもない話も一杯あったのかもしれない。

 そんな中で一つだけ、話してくれた事がある。

 話せるような。聞きたいような。そんな事がある。


「そうだ、クルージさん。これ」


 そう言ってアリサが差し出してきたのは、手作りのお守りだった。


「これは?」


「ユウちゃんからっす」


「こっそり渡されました。クルージお兄ちゃんにって」


「……そっか」


 ……お礼、言いたかったな。

 とはいえ、ユウも堂々と渡せるよう立場じゃないからこっそり託すような真似をしたわけで。

 今ユウに礼を言うのはかえってユウに迷惑だろう。


 だからそれはまた今度。

 ユウに関して言えば、今生の別れって訳でもないだろうから。

 その時、ちゃんとお礼を言えるようにしておこう。


 と、そう決めた時だった。


「悪い、遅くなった。出発するが忘れ物とかはねえよな?」


 連中との話を終えたグレンが馬車の方へとやって来た。


「俺は大丈夫」


「私も無いですね」


「大丈夫っす」


「ならいい。じゃあ……早くこんな所から出よう」

 

「ああ……頼む」


 そしてグレンは馬車を動かす為に扉を閉めて、運転席へと向かって行く。


 ……とりあえず、これで終わり。

 俺とこのろくでもない故郷とは。


 きっと、もうこれで、本当に終わり。

 此処に来る前に、そうなって欲しいと思い描いた結果……願望とはまるで違うものなのだけれど。


 それでもとにかく、もう終わり。

 これからは今この手にある物を手放してしまわないように、しっかりと握り締めて。


 前を向いて生きていこうと思うよ。

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