ex アンチ・ギフターズ 上
時刻は少しだけ遡る。
森に入ってきた四人組の子供に真っ先に素顔を晒されたアンチ・ギフターズの男、ロベルトは助けに入ってくれた幹部に解放してもらい自由になった体で、落ち着きなくその場をグルグルと歩き回っていた。
「ロベルトさん、さっきから何してんの?」
一緒に捕まっていた仲間にそう問われると、ロベルトは落ち着きの無い表情で言葉を返す。
「いや、だって心配だろう!? 幹部連中全員動いちゃってる訳だし、これもう最悪な結果しか見えてこないじゃないか!」
自分達をあの場から救出して解放した後、その幹部も援軍へと向かった。
偶然にも計画の節目でこの場に四人も集まっていた幹部達は、冒険者や憲兵などの戦いに携わる人間の中でもトップクラスの実力を持つ者達で、自身が彼らに警告したように、一人だけ動きが群を抜いて良かった少女以外では太刀打ちできないだろう。
……だとすれば結果的にどういう事が起きるのか。
考えただけで寒気がする。
「……とはいえ、言える立場じゃないんだけど」
事実自分達が真っ先に彼らを殺す為に動いていた。自分達が彼らよりも強ければその場で殺していた。
結果そうならなかっただけで、自分には彼らを心配する資格などない。
「……大丈夫だろうか」
今日で計画の第一段階が終了する。幹部がこれだけ集まっていたのも計画の節目だからだ。
そして……今の計画が一段落付くという事は、暫くは悪人以外を殺めるかもしれない状況に陥る事は無くなる筈で。
普段彼が憲兵として守っている一般市民を殺めるような事にはならない筈だった。
それが今……願わくば自分の前で起きないで欲しかった事が起きている。
……例えそんな事が言える立場ではなくても、落着ける訳が無い。
と、しばらく落着けずにその場をうろうろとしていた所で、その場に幹部の一人が戻ってくる。
「……ユーリさん!」
自分達を助けに入って、開口一番に一番強い少女を弾き飛ばした男。
ユーリはばつが悪そうに頭を掻きながら言う。
「だからユーリでいいって。敬語も止めてくれ同い年だろアンタ。後ウチの定食屋の常連だし……寧ろいつもありがとうございますっていうか……」
「ああ、いえ、こちらこそいつもごちそうさまです……」
一瞬良く分からない空気が流れるが、一拍の間の後、空気が再び張りつめた物になる。
「そ、それで……向こうはどうなった!?」
改めて敬語を外した口調でそう問いかけると、ユーリは言う。
「アイツらを倒すのは中止だ。今ボスが向こうの連中止めに入ってる。全員無事らしい」
「そ、そうか……良かった」
ロベルトは胸を撫で下ろすが、それでも疑問が残る。
「でも、なんで……」
結果的に望ましい形にはなったが、そうなるに至った経緯がまるで見えてこない。
そんなロベルトと、ロベルトと同じく安心した様子を見せていた他の構成員に、ユーリは言う。
「俺が最初にぶっ飛ばした女の子がいたろ? あの子がアルニカさんの娘さんだった。てことは一緒にいた奴の一人は娘さんの運気相殺してる奴で、そうじゃなくてもああいう子と一緒に居てくれてる様な連中だった。俺達にとっては、多少リスクはあっても止まる理由としては十分だろ」
「そうか……良かった」
話には聞いていたが、実際に写真などを見たわけでは無い。
(……そうか。あの子達がそうなのか)
尚更強く安堵した。
普段は、誰かの幸せを守る為に戦っている。
今は、今のままでは幸せになれない人の為に戦っている。
だとすれば、ようやく当たり前の様な幸せを手にする事ができるようになった子供の命が摘まれて良い筈がなくて。その隣りを歩けるような人間の命も絶対に摘まれて良い筈がなくて。
本当に。本当に。そういう最悪な結果にならなくて良かったと、心から安堵した。
自分がそうする事ができる立場ではないという事は。何度も何度も脳裏を過って。百も承知の事だけど。
……それでも。
「ああ、そうだな。良かったよ」
そして、その場に居た全員が安堵している中で、少しづつ時間が経過して。
「ちょっと誰かコイツの怪我見てあげて。もうあの馬鹿が全然助けに入らない所為で私はともかくコイツ死にそうになってるから」
「大丈夫……心配無用………………いやごめん……やっぱヘルプ」
アルニカ以外の二人の幹部もその場に戻ってきて。
そしてもう少しだけ時間が経過して。
「やあ皆。無事で何より」
この世界からスキルを消し去る為の組織。
アンチ・ギフターズの頭がその場に姿を現した。
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