89 今せめて伝えられる事を
生きている価値の無い人間。
自分の事をそこまで悲観的に捉える背景にはきっと、碌でもない背景がそこにある筈だ。
俺自身のように自分の事を自分本意でどうしようもない酷い人間だという風に一人でそう考えるようになったというケースもあるのだろう。
それならまだ良い。いや、よくは無いけど……それでも、まだ良い。
……もしもそれが誰かに言われ続けたような。刷り込まれ続けたような。そんな現実的に一番可能性が高そうな事が根底にあるのだとすれば。
それは、もう本当に……許せるような事じゃない。
「あ、いや、ほんと……そういうのじゃないっすから。うん、大丈夫っす。ほんと……大丈夫っすから! ほら、私程価値のある人間って中々いないっすよ!」
そう言ってリーナはドヤ顔を浮かべるが……それが露骨に空回っている事は容易に理解できる。
声音も、雰囲気も、表情も。全てにおいて無理矢理そう言っているのが伝わってくるんだ。
「……そうかよ」
でもだからと言って、改めてそうやって空回っているリーナのガードは堅いように思えて。これ以上深い所に踏み込む事はまだできなさそうで。
故にその根底にある何かを探る事は、多分まだできない。
……だけど、もう踏み込んでしまった以上、そのまま何もせずに引き下がる事はできなくて。
一方的でも良い。ただの自己満足なのかもしれない。それこそ自分本意な判断なのかもしれないけれど、それでも伝えておきたい事があって。
だから、それ位は言っておこうと思う。
「……なあリーナ、多分お前も察してると思うけどさ、俺達はお前が何かを抱えている事位は分かってたんだ。多分何かから逃げてそこにいるんだって事は、分かってたんだよ」
「えーっと、先輩……なに、言ってんすか?」
リーナは何かを誤魔化そうとするようにそう言う。
……分かるよ。お前に取って本当に踏み込まれたくない様な。俺達に隠しておきたいような話だろうから。そりゃ誤魔化したくなるよな。
……それも分かっているから。
「でもまあ、お前が踏み込まれたくねえってのも分かるから今はそれでいいよ。踏み込まねえ。だけどさ、ほんと、これだけは言わせてくれ」
せめて、これ位は。
「少なくとも俺達は、お前の事を生きている価値の無い人間だとか思ってねえからな」
これ位は伝えよう。
難しい事なんてない。ただ率直な気持ちを。
「知ってると思うけど俺らは、効率とかセオリーとか実力とか、そんなの関係ねえ。仲良い奴等で一緒に仕事しようなみたいな、軽いノリで組んでるからさ、此処にお前がいるって事はそういう事だからな」
「……」
「お前がどう思ってようと、誰かにそういう事を言われたんだとしても! 俺達はそれを全力で否定するからな! ……だからこれからもよろしく頼むよ。お前がいるだけで賑やかで楽しいんだからさ」
正直全身痛いけど、なんとか笑ってそう言ってみる。
……とりあえず、俺が言いたいのはそれだけ。
まだこのパーティーを組んでからの日数は本当に浅いけど。
それでも俺達にとってリーナという女の子が大切なんだって事を。
せめてその位は伝えようと思ったんだ。
伝えたいと思ったんだ。
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