85 人間という生き物の本質
「不純……物?」
「実際キミ達も思わないだろうか? 例えば目の前の現実から逃避する為に現実を歪める。今キミ達の身にも起きている現象が本当に人間の力で起こされているのかと。そう疑問には思わないか?」
「……ッ」
俺もグレンも、それを否定する言葉を持ち合わせていなかった。
何しろ今自分達の身に起きている現象は、男の言う通り本当にこれが人間の力が起こしている現象なのかと、そんな疑問は確かに湧いてきた。男にそう言われて認識した。
そして男は一拍空けてから言う。
「故に不純物さ。こんな物は人間という生き物の本質から外れている。実際人間という器の空いたスペースに何かの意思で無理矢理ねじ込まれたような、そんな力さ」
「……」
具体的な根拠のようなものは分からないけれど、それでも確かに起きている事が異質だと判断した今、男の言う通り、スキルという力が人間の本質から外れた力なのかもしれないとは思った。
それは否定しない。
だけどだとしてもだ。
「……で、それがどうしたってんだよ」
男に対して俺は言う。
「アンタ、自分達がスキルをこの世界から消し去るって考えで行動してるっつったよな?」
「それが何か?」
「何かじゃねえ。スキルがそういう力だったとして、だからってどうしてそんな考え方になる。アンタらの行動でどれだけの人間が迷惑被ってると思ってんだ」
ラーンの村だけじゃねえ。
各地で魔獣が出現している。具体的にどうして魔獣を出現させるような行為が必要になるのかはともかく、コイツらの行動がそれに繋がっているのだとすれば、コイツらの身勝手な行動で多くの人間が迷惑を被っている。
そして男はどこか冷静に俺の言葉に答える。
「……どうやらまだ血が足りなくて頭が回っていないようだね。SSランクの幸運スキルを持ちながらも、今現在常人程の運気しか持ち合わせていない特異な状況下に置かれているキミならある程度の察しは付くと思ったが」
「……まさか」
言われてようやく察しが付いた。
「マイナススキルか?」
「一緒に頑張ってくれている皆の大半は、それ絡みと言っても良い」
そう言って男は一拍空けてから言う。
「助けたい人がいる。助けたかった人がいた。誰かの境遇を見て聞いて、今の世界が変わるべき理不尽な世界だと思った。短期的とはいえ非人道的行為に手を染めなければならない事が分かっていても、それでも多くの仲間はやらなければならない理由があった。どうしてそういう考え方になるのかという問いに関しては、実際酷い境遇の女の子を仲間に加えているキミ達なら、納得できるかはともかく理解は及ぶだろう……変わらなければならないんだ、この世界は」
男の言葉からはどこか真っ直ぐで濁りのない。そんな感情が伝わってきて、きっと今まで口にして来た言葉が嘘ではないのだろうという感情をこちらに抱かせる。
だからだろうか。思わず、聞いていた。
「お前は……何があった?」
俺のそんな問いに、男は少しだけ語る事を躊躇う様な間を空けた後、それでもやがて答える。
「大した事は何も無かった。僕自身がマイナススキルを持って生まれて来た訳でもない。周りの誰かがそうだった訳でもない。寧ろ僕に至ってはこの世界で五本の指に入る程恵まれている。つまり皆の中の大半に含まれないのが僕だ。恵まれていて、それでも気にいらない事があって。世界に対して一人で癇癪を起こしていた所に目的だけは同じな仲間が集まった。ただそれだけなんだから」
「五本の指に入る程恵まれている……か」
グレンは男の言葉から何かを感じ取ったように言う。
「……アンタらの仲間にアリサと繋がりがある奴がいたとして、そのアリサと知り合って数日程度のリーナのスキルの事を知っているのも、俺達の身に起きている事を見透かしたように理解しているのも。なんならスキルなんていう専門家でも分からない事だらけの事に対して、半ばそうだという答えを持ってるような発言してんのも。もしかしてお前……それだけ高性能の解析系のスキルでも持ってんのか?」
グレンのそんな推測。
それにどこか驚いたように男は言う。
「なるほど、鋭いなキミは……ほんとうに、キミの様にスキルなんてものに頼らずに物事に優れた答えを出すというのが人間の理想形だよ。正解だ」
そして男は言う。
「EXランクの解析スキル。世界中を探しても今現在生きている該当する人間が自分以外いるかもわからない最上位のスキルを僕はこの世界に押し付けられている」
そんな一瞬何を言っているのか分からなくなるような事を。
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