77 忠告

「いや、リーナさん。顔隠してるのに取っちゃうとほら、プライバシー的にちょっとあんまり良く無くないですか?」


「いや犯罪グループの連中の顔確認するのにプライバシーも何もねえだろ。確認しようぜ確認」


 アリサの言葉に対してグレンが至極真っ当な反論をする。

 ……ああ、うん。俺も完全に気にする必要はないと思う。


「ま、まあ確かにそうですけど……なんか気が引ける。うん、いや、見なきゃいけないのは分かるんですけど……」


 でもまあやっぱアリサはなんかこう……優しいよなぁ。そんな事配慮する? 普通。


「ちなみにクルージさんは?」


 なんか判断を俺にゆだねてきたので、俺も持論を答えとく。


「俺も別に止めはしねえよ。それにこれから話聞くってのに表情も分からなかったらやりにくいしな」


 これから俺達はコイツらに話を聞かなければならないのだから。最低限目を見て話せるような状態にはしておきたい。


「よし、リーナ。仮面を取ってみてくれ」


「あいっす」


 そう言ってリーナはまず一番近くに寝かせていた一人の面を取る。

 リーナが結界を打ち込んで一撃で昏倒させた相手だ。


「さてさて、どんな悪人面が出て来るっすかね……ってアレ?」


 リーナは少し拍子抜けしたような声を出す。


「全然悪人面じゃないっすね。普通っすよ普通。寧ろ優しそうな顔してるっす」


 現れた優男の表情にそう言うリーナに、思わず俺は言う。


「そりゃ何かやらかしてる奴皆悪人面してる訳じゃねえだろ。逆にギルドの連中の顔思いだしてみ? アイツら何も悪い事してねえのに割と悪人面してる奴もいるだろ? そんなもんだって」


「納得っすけど中々辛辣な事言うっすね」


「まあでもマジで、外見じゃ殆ど人間計れねえからな。辛辣な話じゃねえ。中身

見ようぜって話だよ」


 ……ほんと、分からないから。

 アレックスだって結構な悪人面だったけど、ほんと良い奴だった訳だからさ。


 と、そう考えた時だった。


「……ッ」


 やっている事と反比例して温厚そうな二十代半ば程の優男が、ゆっくりと目を覚ましたのは。


「目ぇ覚ましたみたいだな……色々と質問に答えてもらうぞ」


「……」


 グレンの言葉を聞きながら男は状況を確認するように辺りを見渡す。

 まず俺達を見て、そして近くに寝かされている仲間の姿を見て。

 そして特に取り乱すような事もなく、静かに男は言う。



「なるほど……状況は理解できたよ」


「なら話は早いな。お前ら、此処で何をやってた?」


「……」


「魔獣にあの黒い霧の化物。あれにお前らは関わってんだろ? 知ってる事全部教えてもらうぞ」


 グレンの言葉に男はどこか強い意思を感じさせるような視線を向けて言う。


「……言えない」


「……あ?」


「言えないんだ」


 男の言葉にどこか押されるように一瞬押し黙ったグレンを見て、男は言う。


「……もし話を聞こうと思うなら、今キミは押し黙るのではなく拳の一発でも振るうべきだった。やるべきなのは言ってしまえば拷問だよ。多分キミ達は話を聞くために僕らを生かしたのもあるのだろうけど、きっと人を殺めたくないからこの状況に至ったんだろうな」


 そして男は言う。


「まあとにかく、僕は死んでも此処で起きていた事を言うつもりはない。秘匿されるべき事なのは勿論だけれど……とにかく、余計な犠牲を出さない為にもね」


「犠牲……?」


「キミ達だよ」


 そう言って男は一拍空けてから言う。


「僕達はなんの罪もない人達を危険に晒しているし、目撃者を出さない為にキミらを殺そうとした。だから僕の言葉に信憑性を持てないのは百も承知だけれど……それでも命を失うような人間は一人でも少ない方がいいと思っているのは関係者全員の総意だ」


 だから、と男は言う。


「僕らを王都へ連行する分には構わない。だけど迅速にこの森から出た方がいい。いや、出てくれ頼むから。僕らは知られるのを防ぐために襲ったわけであって、キミ達みたいな子供を殺したいから襲った訳じゃない。今なら引き返せる……だから」


「つまりまだこの森の中には関係者がいて、進めば俺達の身が危ないという事だな」


「進まなくてもだ。現在進行形で危ない」


「なるほど……で、そう言ってる訳だがどうするクルージ」


 確認するようにグレンが聞いてくる。

 どうすべきか……答えは決まってる。


「多分アンタが本気で忠告してくれているのは良く分かったよ」


 あれだけろくでもない連中の相手をした後なら、少なくとも目の前の男があの連中よりはまともである事は理解できた。視線が突き刺さらない。優しいんだ。

 ……だけど。


「だけど引けない」


「……ッ」


「アンタには関係ない事だろうけど、元々此処には来ない予定だった。それでも俺には頑張らないといけない理由ができたんだ。だから……引けない」


「引いてくれ!」


 男は声をあらげる。


「キミ達は強い。たった一度相対しただけでそれは理解できた。だけど……事が起きれば、多分生きて此処を出られる可能性があるのはそこの金髪の子だけだ」


 そう言って男はアリサに視線を向ける。


「キミだけはあの人達と遜色ない動きをしている。だから何かあっても生き残れるかもしれない。だけどキミ達は厳しいと言わざるを得ない」

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