76 尻尾が切れたトカゲ

「そっち終わったか?」


「ああ、とりあえずな」


 戦闘後、俺達は今倒した連中を持ってきた縄で拘束する事にした。

 とりあえずコイツらから話を聞かなければならない……が。


「全員見事に昏倒してるな」


「そうみたいですね」


 全員命を奪うような攻撃はしなかったものの、それでも全力で戦力を削るために行動した訳で。半ば当然の事ながら仮面の連中は誰一人として意識がなかった。


「しっかし何者なんすかねこの人達」


「犯罪組織ですね」


「そうだけどそうじゃないっすよ……」


 二人のそんなやり取りを聞きながら、グレンに言う。


「なんか皆、コートの胸に同じマーク入ってんな。なんて言えばいいのかな……隊服みたいな、そんな感じか」


「だろうな。という事はただのゴロツキの集まりみてえな盗賊山賊よりも、ある程度はちゃんとした組織に見えてくるな……しっかし妙なデザインしてやがるなこのマーク」


「これ……トカゲか?」


「だろうな。しかも尻尾が切れた奴」


「確かトカゲって尻尾切れるんでしたよね?」


「そうっすね。危なくなったら尻尾切り離して逃げ出すんすよ」


「そう考えるとなんか歪な組織に思えてくるんだよなぁコイツら」


 グレンがそう言ったのを聞いて俺も頷く。

 尻尾が切れたトカゲ。危機を自らの何かを切り離して。切り捨てて逃げだしたトカゲ。

 ……正直こんな事をしている時点で十分に歪な組織ではあるのだけれど、それ以上にだ。


「……なんか仲間も平気で切り捨てますよみたいな。尻尾を切ったトカゲなんてもの見せられると、そういう印象湧いてくるよな」


 多分こういう組織のシンボルのようなものは結束を高めるような、そういう意図が取れる様な。そういうデザインになっている事が多いのだと思う。

 もしくは達成すべき目的にちなんだ物か。

 でもなんだ……コイツらのは。

 ……もしかすると俺達の解釈が大幅に間違っていて、この尻尾の切れたトカゲが、コイツらがやろうとしている何かを示唆しているのかもしれないけれど。


「で、どうするクルージ。とりあえず拘束はしたが、目を醒ますのを待つか?」


「そうだな……」


 もっと人員がいればコイツらの番をしている奴と先に進む奴で分けられるんだけれど、現状俺達のパーティーだけでは分断して事を進められる人数はいない。

 戦力も……二分割すればこの状況ではやや不安が残る。

 となれば俺達に取れる選択肢の中で、比較的まともなのはこれか。


「とりあえずコイツらが目を醒ますのを待つか。ただここじゃ死角から奇襲を受けやすい。この先に少し開けた場所がある。そこまでコイツら連れて移動しよう」


 今の戦いはどうにかなったけど、もしコイツらより強い奴らが複数人襲ってくるような状況になった場合、此処に留まっていては木々の死角から攻められる。そうなれば次も全員怪我無く切り抜けられるかどうか分からないから。


「了解。で、コイツらが全部で五人と……とりあえず俺二人担ぐからそれぞれ一人担当で」


 グレンがそう言って軽々と二人を担ぎあげる。

 それに続くように俺達も一人ずつ捕えた仮面の連中を運び、少し歩いた先の開けた場所へと移動した。


「っし、到着」


「あーもう重かったっす。一人位割と行けるかなーって思ったっすけど無茶苦茶キツいっすね」


 リーナが一息吐くように地面に座りこむ。

 まあ俺やグレンは勿論として、アリサもあれだけ動けるのだからある程度の力はある訳だけれど、その点リーナは少なくとも平時においては力や体力面はそれ程高くはないので、本当に短距離ではあったけど結構ハードだったんじゃないかと思う。

 リーナは終わるまで弱音の一つも吐かなかったけど。

 ……俺も二人担当すりゃ良かったな。

 まあとにかく。


「お疲れリーナ。よく頑張ったな」


 何か考え続ける前に、それ位は言っておこう。


「お疲れ様です。とりあえず少し休みましょう」


「どちらにしてもコイツらが目を覚ますまで動けねえからな。周囲の警戒は俺らでやるから、リーナはちょっと休んでろ」


「いやー助かるっすよほんと」


 そう言ったリーナは少し考えるような素振りを見せてから言う。


「……これ私王都に帰ったら、少し体力付ける為に何かした方が良いかもしれないっすね」


「ま、まあ無理しない程度にな」


 なんだろう。これまでの流れ上速攻で馬鹿みたいな体力を付けてきそうなんだけど。


 ……いや、そうでもないか。


 これまでの学習能力がスキルによるものだとすれば、流石に今みたいな事があったから体力を付けようと思ってなんて状況では発動しないだろう。

 ……それこそリーナが何から逃避しようとしてるのか、いよいよ意味が分からなくなるから。


 ……まあリーナは体力を付けないとなんて考えたらその努力は普通にしそうだから。スキルの有無関係なく普通に段階的に付いてきそうだけど。


 と、まあその手の事はまた王都に戻ってからすべき事で。

 リーナは改めて今この状況に関係のある事を俺達に確認してくる。


「そういや特に何もせずに此処まで来たっすけど……どうするっすか? この人達の仮面取っときます?」


 そう言えばやって無かったなと思わせるような、至極真っ当な確認を。

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