53 そんな物を渡されるよりも
「いや、何度も言うけどよ……それは受け取れない」
グレンの申し出を、俺はきっぱりと断った。
「確かに……まあほんと、色々あったよ。あったしそれは慰謝料とか請求しても何も不思議じゃねえような、そんな一件だと思う。つーか慰謝料なんてレベルの話じゃねえ。殺人未遂だ殺人未遂」
だけどそれはこの村の大多数の人間に対しての話で。
「でもお前は違うだろ。お前からそれを平然と受け取れるようなら……まあ、多分俺はアイツら程じゃないにしても碌な人間じゃねえって思う。なんで何も悪くねえ親友から、夢の為に貯めてる金奪わなきゃならねえって話になるだろ」
「そう言ってくれるのはありがてえけど……俺もこの村の人間で、こうなる可能性も予想出来たのにお前を此処に招き入れた訳だしさ。誰も責任を取らなくて、取れるのが俺だけなら俺が何かしないと駄目だろ」
「……いや、いいって責任なんてねえから」
「いや、でもな……」
「……なんかこれ無限ループの気配がするっすね」
……ほんとにな!
でもまあほんと受け取る気はない訳で。受け取っちゃ駄目な訳で。
どうすりゃグレンを納得させる事ができるかな。
と、そんな事を考えた所で一つ思いついた。
納得するかは分からないけど、それでもグレンに言っておきたい事がある。
「まあ、なんだ、グレン。その金はマジでいらねえ。いらねえからさ……お前はさっさと目標金額貯めてくれ。俺まだ向こうで碌に知り合いいねえんだ。そういう意味でもさ……お前がさっさと王都に出て来てくれたら助かる」
長い間、アレックス達以外とはあまり交流をしてこなくて、そのアレックス達がいなくなった後、アリサとリーナを始めとして、ルークやシドさん達と知り合えた訳だけど、まだまだ交友関係なんてのは狭くてさ。
だから親友が王都にいるのだとすれば、それはとてもありがたい事で。
金よりもそっちの方が大切だ。
それに。
「第一俺にとっては、お前から金貰うよりお前が夢叶えてくれた方が嬉しいからさ。だからこんな所で無駄使いしてねえで、ほんとさっさと王都に来い」
俺がそう言ってからしばらくして、グレンは小さく笑みを浮かべて言う。
「そうか……ならしゃーねえな。じゃあ俺は最速で王都に行く! だからこの金は僅かたりとも渡せねえ」
「……ああ、それでいいよ。それがいい。さっさと来い王都に。出て来てから手伝える事ならいくらでも手伝うからさ」
「おう、頼むわ。土地探しとか事業始める申請とか、後王都出たら確定申告のやり方も今と違うし……」
「なんか思ってた手伝いと違う! 後最後の奴素人に手伝える奴じゃないよな? 税理士雇え税理士!」
「あ、私出来るっすよ」
「「何でできんだよ!?」」
「あー、流石にこの流れ予想できるようになってきましたね。ほんと凄いですね、リーナさん」
「いやいや、それ程でも」
そう言ってドヤるリーナ。
うん、ドヤっていい。それはドヤっていい。
と、そんなやり取りを交わしていた時だった。
誰か訪問者が来た事を告げる呼び鈴が鳴ったのは。
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