36 流行り病の話

 大体二年程前の事である。

 少し村に流行り病が蔓延した事があった。

 正直いくら俺でもせめて両親位は自分と同じように大切に思えていた筈で。だから運気も上がっている筈で。だけどそれでもいくら運が良かった所でそれで全てが解決する訳ではなかったのだろう。二人共、流行り病で亡くなる事になった。

 それでも俺にとって運が良かったのは、まだ亡くなるまでの過程がまだマシだったという事位だろう。

 その病は掛かるだけで死に至る可能性が高い病ではあったが、それでも比較的苦しくない。眠りに付く様に穏やかに衰弱していく類の病だった。だけどそれで終わってくれるのは約半数で、かなりの高確率でその病は体内で変異する。そうなれば死に至るまで地獄の様な苦しみに苛まれるそうだ。

 だけど両親も、村の連中も。誰一人としてそうした変異が起こらなかった。

 亡くなった人達は皆、穏やかに亡くなったんだ。

 ……まあそれに関しては本当に運が良かったと思う。


「なんか悪いな暗い雰囲気にしちまって。だけどまあそんな訳だから、こうやって村戻ってくる機会なんてそう無い訳だし。墓参り行っとかなきゃなーって思ってさ」


「いえ、いいんですよ。それはちゃんと行かなきゃですし」


「そうっすよ。後で皆で付いて行くっすよ」


「いや……まあそりゃありがたいけど、多分墓参りってこうしてワイワイ行くようなもんじゃねえだろ」


「いいんじゃねえの?」


 グレンが言う。


「今こんな状況なんだからさ。賑やかな所見せられりゃそれに越した事はねえだろ」


「……そんなもんか」


「そうっすよ。いえーい元気にやってまーすって感じのノリで墓参ってくればいいんすよこういう場合」


 そう言ってリーナが俺に言うと、物凄い複雑な表情でアリサとグレンが言う。


「その……流石に不謹慎ですよリーナさん」


「賑やかってそういうつもりで言ったんじゃねえよ」


「あ、はい。なんかすんませんっす」


 そして……なんかそんな三人を見ていると自然と笑みがこぼれてきた。


「でもまあそうだな。確かにどんな形であれ、賑やかな感じ見せられた方が良さそうだ」


 そうだ。本当にその通りだ。

 グレンを除けばまだ出会ってからそれ程時間が経っていない。関係性としてはまだ浅い様な、そんなものなのかもしれない。

 だけど今この場所で、せめて目の前の三人位は俺にとっては掛け替えのない様な存在で。両親を安心させる為に何か見せられるものと言ったらまず間違いなく今の関係性で。

 だから寧ろ……一人で俯いて墓参りに行くという方が、事俺に限って言えば間違いなのかもしれない。

 そして俺にリーナが言う。


「そうっすよね。賑やかな感じの方が良いっすよね?」


「ああ。でもいえーいは無い」


「うぅ……でも反省してるっすよ。もうちょっと言葉選ぶっす!」


「いや駄目だコイツ全然分かってねえ! テンションの話だテンション!」


「いや、諸々冗談っすよ。怒んないで欲しいっすよグレンさん」


「……」


 半分位本気で言ってた気がする。

 ……まあ本気で言っていても、多分きっとどこにも悪気はなさそうで、本当にありがたいんだけどさ。


「まあ事の真偽は置いといてだ」


 正直全く冗談からではなくナチュラルに出て来た言葉だと思ってそうなグレンは、そう言って話の流れを切り替えてから言う。


「とりあえず部屋案内するよ。つっても客間は一室しかねえからアリサとリーナは相部屋になるけどいいか?」


「いいですよ」


「駄目な理由ないっすね」


「クルージは俺の部屋使えよ。人一人寝るスペース位は確保できる」


「おう。まあ今回の依頼終わるまでは頼む」


「じゃ、とりあえず付いてきてくれ。とりあえず客間だ客間」


 そう言ってグレン先導で客間へと向かう。

 ……少し前に来てる筈なのに色々と懐かしい気がする。

 そう思う位には王都に行ってから色々あったんだなと思う。


「よし、じゃあここな。ぶっ壊さない程度になら好きに使ってくれ」


「いや、どうやったら壊れる様な寛ぎ方できるんですか」


「寝ぼけて魔術ぶっぱなしたりとかな」


「いやいやそんな馬鹿いる訳ないじゃないっすか」


 ハハハと笑うが、リーナが盛大にフラグを立てている気がしてならない。


「そうだな。流石にそんな馬鹿はいねえよな」


 ハハハとグレンも笑うが……その馬鹿昔のお前! 覚えてる!? 俺の部屋半壊させたの!

 ……まあ済んだ事だしいいけども。

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