34 歪の空間
その後村長の家で改めて依頼の説明を受ける事になった。
言われた内容は大体グレンに事前に説明を受けていた通り。そこに加えてこれからの段取りを告げられる。
神樹の森へ出発するのは明日。もしそれまでに村に魔獣の襲撃があれば村の防衛に協力する。ざっくり言うとそんな感じ。
「まあそんな訳だ。よろしく頼む」
説明を終えた村長は俺達に。否、俺を除いた二人に対して言う。
俺はと言えばこの説明中、一応席は与えられているものの半ばいないもの扱いされている節があった。
だけどそれは村長からというだけで……村長を取り巻く人間からは露骨なまでの嫌悪感が向けられていて。
対するこちらはと言うと……主にリーナが明らかにまともな表情を装って村長達の話に相槌を打っていて、アリサはというと何をどうしたらいいのか分からないというような、そんな険しい表情を浮かべていて。グレンもまた終始不機嫌そうな表情を浮かべていた。
多分だけれど、リーナがいなければ話がまともに進まなかったのではないかと思う。それ位には異質で歪な空間となっていた。
……本当に、生きた心地のしない様な。そんな空間だった。
多分今、俺はアリサやリーナとパーティーを組んでるからこそ無事でいられるのかもしれない。
アリサやリーナに気を使ってか。それともアリサとリーナの弱みでも握って言うことを聞かせていると判断して慎重にでもなっているのか。
とにかく多分、公私共に一人でこの村に足を踏み入れていれば、殺されていたのではないかとすら思う。
そう思う位にこの場所は今、そういう空気に満ちていた。
……そしてそれが終わると俺達は村長の家を出た。
とりあえず明日の出発までは待機という事になる。
……魔獣が出てこなければ。
「本当は宿泊先まともに用意できりゃいいんだけどよ……まあ、あんまり連中が用意する所なんて使わねえほうがいいだろ。俺んち部屋余ってるから使ってくれ」
「……まあそうさせてくれるとありがてえよ」
その後俺達はグレンに促され、グレンの家に向かう事となった。
途中すれ違う村人達は例の如く俺に嫌悪感を。恨みの様な物が籠った視線を向けてくる。そんな視線を突き刺してくる。
……ただ一人を除けば。
「ぁ……ッ」
途中偶然鉢合った女の子は俺を見て凄く驚いた様な表情を浮かべていた。
当然の事ではあるが、俺はそれが誰なのかを知っている。
「……ユウ」
近くに住んでた夫婦の一人娘。
確か……俺が居なくなってる間の誕生日で10歳になってたかな。
そんなユウともまた、俺のスキルが村の中で問題視されはじめてからまともに口を聞いていない。
だけど今まですれ違ってきた人間とは違いユウからは……大人達が向けてきたような嫌悪感は伝わってこなかった。
「……」
そしてユウは何かを言おうとしばらく俺達の前に立ち止っていて……そして。
「……ッ」
そのまま逃げるようにこの場から走り去ってしまう。
「……知り合いっすか?」
「まあな。一応知り合いじゃない奴の方が少ないからな」
「なんだかあの子だけ感じが違いましたね」
アリサがそう言うと、少し考える様に少しだけ間を空けてからグレンが言う。
「……まあ結局、まともに分かりやすく味方できたのは俺だけって事なんだろうよ。俺ができてたかも正直よく分からねえけど」
グレンは一拍空けてから言う。
「大人が広いかは分からねえけど、少なくとも子供は大人より生きる世界は狭いだろうからさ。そこで周りに同調していかねえと生きていきにくいだろ」
「……そんなもんっすかね」
「そんなもんだよ。俺は何かあってもなんとかなるけど、アイツみたいなのの場合そうはいかねえんだからさ。だからまあ、周囲の大人の流れに乗るさ」
だけど、とグレンは言う。
「お前と会ってボロが出たな……正直今まで俺も気付かなかったけど、多分アイツそこまでお前の事悪く思ってないんじゃねえのか?」
「……そうだとしたら嬉しいな」
ほんと、今どうして自分が此処に立っているのか分からない位、苦しいから。
そうかもしれないと思える何かがあるだけで、だいぶ気持ちは楽になる。
そしてアリサが少しだけ表情を明るくさせて俺達に言う。
「……という事は他にもそんな人がいるんですかね? 周りの人に合わせてるみたいな人」
「……ま、ユウの反応だけみればそう思いたいんだが……お前らも見たろ。あの視線は同調で出せる物じゃねえよ」
「……」
「今日クルージを見た奴はユウ以外全員一人残らずああだった。まだ全員と顔合わした訳じゃねえけどさ……ここまで全員が露骨ならもう、無理だろ多分。ユウの反応は多分例外中の例外中って考える方が自然だ」
だけど、とグレンは言う。
「いてくれたらいいな。せっかくこんな所に戻ってきたんだしよ」
「……ああ」
俺はグレンの言葉に頷いた。
それが全体の僅か数パーセントでも。あと一人や二人でもいてくれればいい。
少なくとも。今まだ何もしていない今の時点でも。俺の事をまともに見てくれている人がいるならば。
俺の存在を肯定してくれる様な人がいるならば。
きっとそれは間違いなく良い事の筈だから。
そしてそんな会話を交わしながら歩いているとやがて辿りつく。
「よし、着いたぞ。此処が俺んちだ」
村の中では比較的大きい部類になる、グレンの家に。
ようやく刺殺される様な視線から解放される場所に辿りついた。
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