33 四方八方からの嫌悪

「……キミはこの村の事情を知っているのか?」


 アリサの言葉に村長がそう問いかけると、アリサは頷いて答える。


「はい。クルージさん。村で疫病神って呼ばれてたんですよね」


 多分それは当事者に対して面と向かって言うのは難しい事なのかもしれない。

 だけどそれでもアリサは真っ向からそれを口にした。


「……そうか、そこまで知っているのか」


 そしてアリサの言葉を聞いた村長はそう言った後、一拍空けてから言う。


「大丈夫だったか?」


 アリサとリーナを心配するように。

 そして村長は続ける。


「クルージは人の運気を吸い上げる。これまでも何か録でもない事があった筈だ……いや、ちょっと待て。そもそもどうしてキミ達はクルージなんかとパーティーを……」


 と、そこまで言い掛けた村長に対し、アリサが何かを言おうとする。

 どうしてパーティーを組んでいるのか。どうして組めるのか。そもそもこの村に蔓延しているクルージという人間の評価がただの勘違いであったと。そういう事をこの流れで言おうとしてくれたのかもしれない。

 だけどそれよりも早く村長は言う。


「まさか、脅されでもしてるのか?」


 そんな酷く無茶苦茶な、どうしようもない勘違いを。

 だけどすぐさまアリサがそれを否定しに掛かる。


「ち、違います! 脅されてなんかないです! 寧ろ僕は助けられていてます」


 そしてアリサは俺に対して露骨な嫌悪感を向ける村長に向けて言う。


「あの、実はボク……SSランクの不運スキルを持っていて……その、クルージさんのおかげで今普通でいられてるんです。だから――」


「もういい、言わなくて」


 村長はアリサの言葉を遮るようにそう言った。

 遮りながら、今までよりも遥かに重い嫌悪に満ちた視線を俺へと向けていた。

 それ以上の事を村長は口にしない。だけど何を考えているのか位よくわかった。

 一体俺がどういう風に見えているのかなんて事は良く分かった。


 SSランクの不運スキル。そんな冗談でも言わせては行けない様な、そんな嘘をアリサに吐かせている。

 そんな酷くそして無茶苦茶で無理矢理な嘘を吐かせてまで、自分の存在を肯定させようとしている。

 とにかく脅すなりなんなりして、無理矢理女の子を従わせている。

 そんな酷くどうしようもない外道を見る様な、そんな視線を俺は向けられていた。

 もしかしたら齟齬はあるかもしれないけれど、それだけの強い嫌悪感は伝わってきた。


 そして村長はそんな視線を向けながらも、俺達に。いや、俺以外に対して言う。


「……仕事の話をしよう。ついてきてくれ」


 そして村長は踵を返して歩き出す。

 そしてそんな村長の背を見ながら、アリサが村長に聞こえない様な小さな声で言う。


「……駄目、でしたね」


「……ああ」


 結果だけを見れば、寧ろ逆効果ですらあった。

 元より最低だった俺への心象が、最低値を更新してしまっている。

 そしてそんな小さく身近な会話をしてから、ふとリーナとグレンを見た。

 グレンは最大限に不機嫌そうな表情を浮かべていて……リーナもまた、酷く重い表情を浮かべていた。


 ……そしてそこから先、村長に案内されて村長の家に辿りつくまで殆ど俺達の間で会話はなかった。

 皆多分、村長を前にしていると言えない様な事ばかり考えている。考えていてくれているのかもしれない。

 そして同じく、村長と俺以外の三人との会話も殆ど弾む事が無かった。

 全員が、軽い相槌しか返していなかった。

 それよりも皆は……いや、多分アリサとリーナは周囲にひたすら注意を向けている用に思えた。

 すれ違う村人から。噂を聞き付けて近くまで来た村人から。それこそ強い嫌悪に塗れた視線が向けられてくるのだから。


 ……とにかく、俺がラーンに戻って来た事によって異様な空気が。

 俺がアレックス達に噂を流されてギルドで孤立した時よりも遥かに。体感で言えば何十倍にも感じる程の重い視線が向けられていた。

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