20 過去と未来
あれから俺達は馬車に乗り込んでラーンの村を目指す事になった。
ラーンまでの距離がどの程度かと言われれば、まあ地味に遠い。
全力でぶっとばせば話は変わってくるのだろうけど、普通に行けば馬車で丸一日掛かる。そりゃ準備も必要な訳だ。
「ところで……まあ、人がどうって話じゃなくてですね……ラーンってどんな村なんですか?」
移動中、俺達の中で唯一ラーンの知識が皆無に等しいアリサがそう聞いてくる。
だけど改めてどんな村か、だなんて聞かれても答えるのは難しい。
「……まあ普通の村だよ。田舎感がすげえ村」
……本当にこんな事しか言えねえ。
「へぇ……田舎、ですか」
「そうっすね。ほんとザ・田舎って感じの所っすよ」
「それ村出身意外の奴に言われるとすげえ複雑な気分なんだけど!」
いや事実なんだけど!
「ってかそういうお前はどうなんだよリーナ。お前も王都生まれじゃねえだろ。お前の出身はさぞ人の故郷をザ・田舎なんて言える位には栄えてる所なんだろうな」
「あーまあそうっすね」
堂々と答えやがった。
そしてリーナは言う。
「エデンブルクって言ったら分かるっすかね? そこから来たんすよ私」
「え? お前そんな所から来たの?」
「そうっすね。都会育ちの都会っ子っすよ私」
正直意外だった。
……エデンブルク。
王国内において王都の次に栄えていると言っても良い都会。
いや、次にとは言ったが実質的に負けず劣らずと言ってもいいのかもしれない。
とにかく……まあ、ラーンとは比べ物にならないような都会だ。
……まあ、その……だからこそ意外要素が凄いのだ。
俺はリーナと話す度にどうしてコイツは冒険者なんかにって凄く不思議に思っていた訳だけれど、今の話を聞いてただでさえ意味の分からない所が多かったリーナという女の子の存在がより分からなくなった。
「……なあ、リーナ」
「なんすか?」
「お前さ、どうして王都に来たんだ? 冒険者になる為って事ならエデンブルクでもなれたろ?」
エデンブルクは、王都に負けず劣らずの大都市である。
それ故に当然の様に冒険者ギルドの支部は設立されているし、その規模も聞いた話によれば王都の本部と変わらない。
だから正直な話冒険者になる為というのであれば、王都にやってくるメリットなどどこにもないのだ。
だから思わず俺は聞こうとした。
もしかして、エデンブルグに居たら都合の悪い事でもあったのかと。
もはやそうとしか考えられなかったから。
そう、聞こうとして……踏みとどまった。
踏みとどまれた。
俺はグレン程察しが良い訳ではないけれど、それでも俺の言葉に一瞬見せたリーナの表情で。
そして初めてどうして冒険者になったのかを聞いたときに感じたものと同種の威圧感で。。
そしてその二つの反応を見せた事で……察する事ができた。
どうしてエデンブルクでは駄目だったのか。
……そしてそもそもどうして冒険者になったのか。
そうした過去の事は、絶対に触れてはならない程に、重く深い物ではないのだろうかと。
具体的に何があったのか。何を抱えて此処にいるのか。それは分からないけれど……それでも、それこそ俺の抱えていた問題なんて実は些細な物なのではないかと錯覚するような物なのではないかと。
「まあ、ほら……色々あったんすよ、色々」
そう言ってリーナは笑う。
返答を。もしかするとそれ意外の何かも誤魔化す様に。
……逃避する様に。
「まあ何事も大事なのは今っすよ今。ほら、私アリサちゃんと先輩と居るのすっごい楽しいっすよ?」
と、リーナは自分で言っておきながら、言い過ぎたと言わんばかりに顔を赤くして目を反らす。
そしてそんなリーナにアリサは言った。
「そうですね。今が楽しければそれでいいですよ」
「すげえ……そこだけ切り取ったら未来の事何も考えてねえ若者みたいだ」
「いいんじゃないですか? ボクは結構真面目に、今が楽しければそれでいいなって思いますよ。それで駄目な若者なら駄目なのが良いんです……あ、でもボクも何も考えていない訳じゃないですよ?」
そんな俺達の言葉にリーナはクスリと笑って言う。
「そうっすね。私も駄目な若者でいいっす。ちなみに私は未来の事割とマジで何も考えてないっす」
「いやそれはそれでどうなんだよ」
と、そんなやり取りをしていると、笑っていたアリサがリーナに気付かれない様に少しの間だけ表情を変えて、俺の目を見た。
……後で話がある。そう言いたげな、そんな目。
……分かってるよアリサ。
多分俺達がそう簡単に踏み込んで良い様な話じゃない。
踏み込める話じゃないし、話したくない意思を踏みにじって良い物じゃないんだ。
だけどそれでも……考えていても考えていなくても、未来は今になって訪れるから。
過去はそんな未来を引き連れてくるから。
……今何もしないのなら、何も考えなくても良い訳じゃないんだ。
いつか来るかもしれない何かの為に。
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