19 出発
生き証人。
確かにアリサがいれば、俺の幸運スキルが他の人間を不幸にする様なスキルではないと証明できるかもしれない。
……だけど。
「でもだからってそれ、人の不幸を利用しようとしてるみたいじゃねえか」
「まあそう考えれば良い気はしねえな」
だから、とグレンは言う。
「まず大前提として、アリサが頷かないとやれねえ。やっちゃ駄目だ。そこ許可取らないで私的に利用し始めたら、それもうどうしようもねえ奴だからさ」
「……ああ」
それを聞けて少し安心した。
もしグレンがアリサに全く配慮していないような案を出していたなら、俺の為に言ってくれた事とはいえ流石に怒っていたかもしれないから。
「ま、とりあえず村につく前にその話はしておこうぜ……っと、そんな話してたら来たんじゃねえかアイツら」
「ほんとだ」
視界の先に、アリサとリーナってが映った。
とても楽しそうに談笑しながらこちらに向けて歩いてくる。
……ほんと、なんつーか。死なないように死ぬ気で頑張らねえとな。
目の前の光景を壊すような事だけは、何があっても起きてはならない事だと思うから。
そして二人は俺達の元へと辿り着いた。
「お待たせしました」
「いやー今朝の事もあったからまた遅刻してくるんじゃないかって思ったっすけど、ちゃんと来ててなによりっすね」
「まあ朝のは寝坊でイレギュラーだしな。基本俺は余裕もって行動する派だし」
うん、基本はそうなんだよ。
俺基本はちゃんとやれてる筈なんだよ。今朝を基準に考えないでほしい。
俺はその位ならやればできる子である。
「もしかして結構待たせちゃいました?」
「あ、いや、俺達も今さっき来た所だよ。な、グレン」
「ああ、そうだな。さっき来たばっかだな」
と、そう言うグレンはどこか微笑ましい物を見る様な笑みを浮かべている。
……いいだろ。この位見栄張ったって。
と、まあそうして俺達が全員揃った所でグレンは言う。
此処からは仕事の話だ。
「さて、一応確認しておくけど、全員準備はできてんだな?」
その問いに俺達全員が頷く。
それを見てよしと言ったグレンは言う。
「じゃあ早速これからラーンの村へ向かおうと思う。とりあえず着いてきてくれ。向こうに馬車用意してあるからそれ使うからよ」
そんなグレンの言葉に俺達三人は再び頷いて、先導するグレンの後ろを付いていく。
と、そんな中でアリサがグレンに聞いた。
「ちなみに誰が馬車を動かすんですか? グレンさん?」
「ああ。流石にこんなもん業者に頼んでたらいくら掛かるか分からねえからな。俺がやる。そういう感じで乗ってきた」
「へぇ、馬乗れるんですね。ちなみにクルージさんも乗れたりします?」
「乗れる。村に居る時はそれなりに馬に乗る様な機会あったからな。ああ、グレン。途中何回か変わろうか?」
「ああ、そうしてくれりゃ助かる。割としんどいしな」
……と、こんな流れの話をしていれば、なんとなく聞いておきたい事が出てくる。
なんとなく聞けばどういう答えが帰ってくるかは想像しやすいのだけれど、まさか流石にと思いながら俺はリーナに問いかける。
「ちなみにリーナは馬乗れる?」
「馬っすか。あーもう長い事乗ってないから、うまく乗れるか分かんないっすねー」
つまり乗れてたと。
……なんだろう。神様がいるかどうかなんてのは分からないし、正直いた所でスキルの話でもなんでもないから全く関係ないのだろうけどさ……。
コイツ万物与えられすぎじゃね?
逆に何できねえのお前。
というかマジでなんで冒険者になったんだよ本当に。
「……なんとなく察したぞ俺。実はリーナもお前の立場を危うくする様な天才だな?」
「まさしくそのとーりです」
俺にしか聞こえない様に言ったグレンに、俺は小さな声でそう呟いた。
まあとりあえず……ラーンの村へ向けて出発である。
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