12 命を掛ける価値
「降りろってお前……何言ってんだよグレン」
「何言ってんだよっていうかさ……そういう返しされる事事態が何言ってんだよって感じだよな」
そんな意味深な事をグレンは言う。
……いや、意味深なんかじゃない。
分かるさ、お前が何を言ってくれるのか位は。
そしてグレンは予想通りの反応をしてくる。
「お前はそもそも俺達みてえなクソ野郎の為に命掛けてんのがおかしいんだよ」
「……」
結局、ルークに言われた様な事と同じ事。
いや、実際にグレンは見てきた側の人間だから。
更に意思の強い、そんな言葉。
「お前はもう俺達みたいなのとは関わらねえ方がいいんだよ」
「……いや、関わるよ」
俺はグレンの言葉にそう返す。
「結局俺が村でああなったのは基本的に全部勘違いから来るものだろ」
「……」
「だったら……それ無くせば。そんな蟠りが解ければ……」
「それでもお前が受けた仕打ちがなくなるわけじゃねえだろ」
そしてグレンは一拍空けてから言う。
酷く深刻な表情で。
「お前に何もしてやれなかった現実が、なくなる訳じゃねえだろ……ッ」
「いや、お前は違うだろ!」
俺はそんな自虐的な発言に思わずそう言う。
「お前だけだろ! 俺から離れなかったのは! それにどれだけ助けられたと思ってんだよ!」
「……それでも俺は、あの現状を変えないといけないような立場だったと思う。まあ、そう言ってくれるなら……ありがてえけど」
だけど、とグレンは言う。
「他の連中はどうだ。蟠りが解けてそれでどうすんだよ! 今までの全部チャラにしてそれで終わりって、それでいいのかよ!」
「……」
「……良い訳ねえだろ」
そんな、納得のいかない表情を浮かべるグレンに俺は言う。
「……良いんだよそれでも」
俺はグレンに言う。
「お前なら分かるだろ。俺、ああなる前は、結構あの村で幸せにやれてたんだぜ?」
「……」
「色んな奴に良くしてもらえてたんだぜ」
「いや……まあ、そうかもしれねえけどよ……」
グレンは分からなくもないような、そんな表情を浮かべる。
だけど俺の顔を見て何かに気付いたのか、俺に問いかける。
「……それだけか?」
「……」
「……理由は本当にそれだけか?」
理由。
他に理由はあるのだろうか?
「……分からない」
「分からねえってお前……」
自分でこの依頼を受けると決めたときから、ずっと抱いていた疑問。
蟠りさえなければ助けたいと思える人達だから。
そしてグレンは知らないだろうけど。知るはずがないだろうけど。だから分からないと言うのは半分嘘なのだけれど。贖罪のような、そんな感情もある。
……だけどそれだけじゃない。
それとは違う何かは間違いなくあるんだ。
……それがなんなのかは、本当に分からないのだけれど。
「……でもまあ理由がどうであれ、俺がこの依頼を受けたいって思ってここにいるのだけは間違いじゃねえ」
「……そうか」
グレンは俺の言葉に諦めた様にため息をつく。
「まあお前がそこまで言うなら……これ以上は何も言えねえ。言えねえよ……」
だけどな、とグレンは言う。
「俺はやっぱりあの村の事なんて、全部忘れちまった方がいいって思うよ……あれはもう駄目だ」
「……」
「……後悔してもしらねえぞ」
グレンはそんな事を重い口調で言った後……それこそ気持ちを切り替えるように。少し明るい表情を浮かべて俺達に言う。
「よし、まあこんなしんみりした話ばっかしててもしゃーねえ。俺が依頼人でお前らは受けてくれた冒険者。とりあえず依頼の話すっか」
グレン本来の明るく軽い感じの口調で。
……そんな雰囲気を作って。
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