25 リーナの秘密
二つの仮説を立てた俺達は、あれから暫くして店を出た。
まさかただの食事休憩のつもりで入った店で、これ程までに有意義な時間を過ごせるとは思わなかった。
これ程までに……有益な仮説を立てる事ができるとは思わなかった。
「さて、再開っすね」
「ああ。早い所見つけちまおう」
そして俺達は再びアリサを探し始める。
元から重かった訳ではない足取りは、更に軽くなった様に感じた。
だってそうだ。
全ての仮説が正しければ、俺の意思が揺るがない限りは全てが丸く収まるのだから。
俺達が求めている理想に辿りつけるのだから。
「……しかしまだ仮説とはいえ、俺もアリサもどっちも自分のスキルの事勘違いしてた可能性が高いんだよな。って事考えると世の中その辺り勘違いしたままの奴で溢れかえってそうだな」
「ま、実際そうだと思うっすよ」
リーナは言う。
「人間の持つスキルに関してはまだ解明されてない事が多すぎるっすから。実際研究職に携わっている科学者ですら分からない事だらけなのに、そうでもない私達が。視覚と感覚で捉える以外判断基準がない私達が間違えない方が難しいんすよ」
「そんなもんか」
「そんなもんっす。それだけ難しいんすよスキルって存在は。昔少しだけそっち方面の勉強齧ったっすけど、さっぱりっすもん」
「なにお前その辺勉強してたの?」
「はい、してたっす」
なんか微妙に詳しいと思ったけど、それなら納得である。
あとはまあ無茶苦茶偏見というか、イメージで語りすぎなのは分かるけれ……コイツ勉強とかするんだ。
そんな風に少し内心驚いていると、リーナは言う。
「以外っすか?」
「……まあ、ちょっとな」
「ならイメージを改めて欲しいっすね。私これでも色々勉強してたんすよ? スキルに限らず色々と」
「へぇ……」
マジか! 全然イメージにねえ!
「外国語だって3か国語話せるっす」
「〇△〇*△〇#%$」
「ごめん喋れてるのかどうかも分からねえ!」
「駄目っすね先輩。時代はグローバルっすよ」
「まさかお前にそんな事言われるとは思わなかった」
俺がそう言うとリーナが自然とドヤ顔を浮かべる。
……あれ? なんだろう……なんか悔しいんだけど。
多分アリサが同じスペック持ってても「すげえじゃん」で終わる気がするんだけど、なんかリーナの場合すげえ悔しいんだけど。
……俺も勉強しようかな?
……いやいや待て待て。ただでさえ魔術だけでも手一杯でどうにもなってねえのに、そんなもんまで手を出したら全てが宙ぶらりんに終わる。
……つーかちょっと待て。
「というかお前、そんだけ勉強してんのに何で冒険者なんかになったんだよ」
俺やアリサの場合は、生業として冒険者を選択するだけの明確な理由があった。
選択せざるを得ない理由があった。
だけど本当に冒険者というのは数ある職の一つに過ぎない。
それこそリーナが本当に喋れてるのかは分からないが、外国語を習得する位に勉強していたのなら冒険者以外にいくらでも道が。というより高確率で他の道を歩んでいないとかえって違和感があるように思えた。
だから聞いた、そんな問い。
そんな問いにリーナは答える。
「それは乙女の秘密っす」
そう言ってリーナは手に指を添えた。
「……そうか」
そこから先、無理にその事を聞こうとはしなかった。
別に俺にとってそれは必ず紐解かなければならない様な事でもない。そしてリーナが隠すつもりならば無理に問う必要も無い。
……そんな理由を並べられるけれど、実際の所はそれ以前に大きな理由があった。
正直良く分からないけれど。気のせいかもしれないけれど。伝わってきた様に思えた。
リーナから……そこから先に踏み込むなと言わんばかりの威圧感が。
だから聞かなかった。聞けなかった。
……まあ誰にでも言いたくない事はあるだろう。
とりあえず今はそれでいい。
少なくとも今はそうしなくてはいけない気がする。
「じゃあいいや。とりあえず頑張ってアリサを探そうぜ」
「はいっす!」
そう言って一旦その話は打ち切った。
……再開する日が来るかは分からないけれど。
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