24 幸運の形 幸福の形

 何故リーナが不運な目にあっていないのか。

 その疑問についてリーナが苦笑いを浮かべながら言う。


「も、もしかして私、実は普通に嫌われてたりするんすか……?」


「いや、違う違う! それはいくらなんでもちげえって!」


 リーナがアリサにとって傷付けたくない様な大切な存在なのは間違いない。

 だからそれだけは確信を持って否定できた。


「そう……っすかね?」


「ああ。それだけは間違いねえよ」


「そう……っすか。そうっすよね……よかった」


 割と真剣に心配していた様で、リーナは安心したように胸を撫で下ろす。

 そしてその後、少し真面目な表情でリーナは言う。


「でもそれじゃあ私が全く影響を受けていないのは一体……」


 そしてそこからリーナはハンバーグをモグモグしながら思考に耽り出した。

 そして俺もまた、チキングリルを口にしながら考える。


 俺とリーナの違い。

 アリサから向けられる感情の大きさが具体的にどの程度のものなのか。どの程度の差があるのか。その差によって振りかかる運気の低下率がどれだけ違ってくるのか。その辺りは分からないけれど、そもそも向けられている感情の方向性は俺もリーナも変わらない筈だ。

 だからリーナの身に何も起きていないという事は、俺とは決定的に違う何か。運気低下の条件から外れる何かがある筈なのだ。


 ……可能性があるとすれば逃避のスキルか。

 そう考えた所で、リーナが何かに思い至った様な表情を浮かべる。


「何か分かったのか?」


 俺がそう問うと、とりあえずちょっと待ってと言わんばかりに手の平をこちらに見せてモグモグ。

 口に食べ物入れたまま喋らない。うん、行儀いいね。

 そしてリーナはコップの水を数口飲んでから俺に言う。


「分かったかもしれないっす。先輩は影響を受けて、私が受けていない理由が」


「聞かせてくれよ。俺とお前に何の違いがある」


「いや、私と先輩に何か違いがあるっていうか……うん。そういうんじゃないっす。私が言いたいのは、先輩もアリサちゃんと同じ様なパターンなんじゃないかって話っす」


「アリサと……同じ?」


 一瞬それが何を意味するのか分からなくなったが、自然と答えには辿り着けた。


「お前……俺も自分のスキルの詳細を勘違いしているって言いたいのか?」


「まあ、そうなるっすね」


 リーナが頷いてから言う。


「どうっすか? もしかしたら違うかもしれないって思う節はあるっすか?」


「……」


 スキルの詳細を勘違いする。

 それは俺が既に一度経験していて、そしてもう既にその間違いを正している。

 正しているから俺は前を向いて歩ける。自分が存在していいんだって思えている。

 正せる様な事が会ったからこそ、俺はアリサとパーティーを組んでいる。


 それが……まさかまた間違いだとでも言うのか?


 正直そんな訳がないと、そう思った。

 だけどそれを上書きするように、こうも思う。


 俺と俺の周囲の運気を底上げする能力。そんな能力だと裏付ける証拠はどこにもない。

 俺は周囲の人間から運気を吸い取る疫病神ではない。今の所、証明できているのはそれだけである。


 そして、俺がその可能性がある事をを内心十分に理解し始めた所で、リーナは言う。


「私の予想っすけどね……先輩は今も現在進行形でアリサちゃんの運気を底上げしてるんすよ」


「……ッ!?」


「アリサちゃんの不幸スキルと逆っす。まさに真逆のスキルでアリサちゃんのスキルを相殺する。私が考えられる可能性ってなるとそんな所っすかね」


 だってそうっすよね、とリーナは優し気な表情で言う。


「先輩も、アリサちゃんに不幸な事は起きてほしくないっすよね。もし何事もない平穏な一日をアリサちゃんが送れているとすれば……それは先輩にとって幸運な事、ですよね」


「……ああ」


 なるほど。しっくり来た。

 確かにそれならば、俺が影響を受けてリーナには影響が届いていない理由も理解できる。

 そうなる前に。他の誰かに影響を与える前に。俺とアリサがそれぞれ互いのスキルを相殺しているから。


 ……そしてだとすれば。だからこそ、一つ納得のいく事がある。


 この前。俺が復帰する前にアリサがおすそわけで持ってきた、コーヒーショップの抽選プレゼントギフトセット。

 本来SSランクの不幸スキルを持つアリサには、限りなく入手できない代物だった筈だ。

 だけどそれをアリサは手にした。俺が居ない所で。

 俺はそれを、常人よりも遥かに薄い確率の奇跡的が舞い降りて来たのだと。そんな様な物だと考えてきた。


 だけど、そんな天文学的な確率はそう起きない。

 あの時はそうとしか考えられなかったけれど、別の可能性が生じた今、それは実質的にあり得ない事となるんだ。


 ……別の可能性。

 俺のスキルと相殺して、アリサの運気が人並みかそれよりも少し悪い程度になっている可能性。

 だからこそアリサの元にギフトセットが届いた。


 仮設が正しければ、現在進行形で運気が普通のアリサの家へと。


「……じゃあなんだ。俺は今もアリサを助けられてんのか?」


「私の仮説が正しければそうなりますね」


「……じゃあ正しいように祈ろうぜ」


 これが正しければ……俺達は本当に幸運だ。

 だってそうだろ?


「もし俺のスキルがそういうスキルなら……お前がアリサと向き合う為の障害、無くなってんだから」


 後は面と向かって話すだけで、全てが解決するのだから。

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