13 後輩防衛戦

「よし、とりあえずギルドに戻るか。長居する意味ねえし」


 リーナの応急処置が終わったところで俺は二人に対しそう言う。

 今回の目的はリーナの救出だ。

 一定数モンスターを討伐したり、何かを採集するのが目的ではない以上、長居する事にメリットはないだろう。


「そうですね。ボクも賛成です。リーナさんもそれでいいですよね?」


 リーナとすっかり打ち解けたアリサもそう言ってリーナに問いかける。

 ……だが、当然頷くと思っていたリーナは首を振った。


「あ、ちょっとまって欲しいっすよ。まだ私は帰れないっす」


「え? なんで?」


「薬草の採集が全く終わってないっす。ずっと逃げ回ってたんで」


 なるほど、そういう理由ね。

 今帰ったら仕事をぶん投げて帰ることになるわけだ。結構真面目だなコイツ。


「でもまあ緊急事態だ。こういう時は仕事ぶん投げて帰ってもバチは当たらねえよ」


「そういう問題じゃないんすよ! この依頼をこなさないと私晩御飯食べられないじゃないっすか!」


 なるほど。コイツが真面目なんじゃない。真面目に切実な問題を抱えているんだ。


「……なるほど、そういう事ですね」


「そりゃ……確かにまずいな」


 俺もアリサもリーナの言葉に頷く。

 俺達は知っている。ずっとソロでランクの低い依頼を受け続けていたから知っている。

 低ランクの依頼の報酬額はまあ少ない。とにかく少ない。悲しくなる位少ない。

 当然その日食べていけるお金位はなんとかなる。家賃とかだって一ヶ月間少しずつ積み立てて用意はできる。でもその程度だ。


 それで辛うじて食いつないでいる低ランクの冒険者にとって、依頼を止めて引き返すなんて事は、わりとじょうだん抜きで死活問題なのだ。


 もっとも今回の場合イレギュラーな事態が絡んでいる。

 俺の時に入院費に加え治療費交通費と慰謝料が出たように、何かしらの手当てが出る可能性も十分にある。

 だけど可能性は可能性だ。その保証は俺達にはできない。

 だったらどうするべきなのか。


「クルージさん。お時間大丈夫ですか」


「ああ、大丈夫」


 俺もアリサも答えは同じだ。


「じゃあボク達が手伝いますよ」


「え? いいんすか!?」


 差し伸べられた救いの手にリーナは目を輝かせ、そんなリーナに優しげな表情でアリサは言う。


「今この辺りは結構危険な感じしますし……だけど依頼をこなさないといけないって気持ちも分かります。辛いですよね……金欠」


 なんだかとても最後の言葉に重きが置かれてる気がする。

 ……大丈夫かな? なんかわりと冗談抜きで頻繁に強盗とか空き巣に入られてたり、スリに遭遇したりしてないかな?

 ……本当にしてそうで怖い。


「あはは……アリサちゃんもそんな風な事で困ったりするんすね。てっきり高ランクの依頼こなしまくってて、金欠とかとは無縁かなって」


「いやーボク達もつい最近まではソロで細々とやってたから……」


 と言いつつも、絶対アリサの金欠の原因はそこじゃない。

 確固たる証拠がある訳ではないが、なんかこう……やっぱり凄くそんな感じがする。


 ……あーうん。頑張ろ。


「へーそうなんすか。アリサちゃんあの動きなら色んなパーティーに引っ張りだこかなって思ったんすけど」


「……まあ色々ありましてね」


 と、アリサがそう言った時だった。


「え、ちょ……まて、待て待て待て!」


 アリサがその先の言葉を言うつもりだったのかは分からないが、話の流れを俺が完全に止めてしまう。


「ど、どうしまし――」


 言いかけた所でアリサも気付いたらしい。


「……あ」


 そしてリーナも。


 俺達の視界に映った光景を一言で言うならば第二波。


 即ち、確認したのは魔獣の群れ。

 その数……30近い。


「な、ななななんであんなに沢山いっぺんに来てんすか!」


 無茶苦茶慌てるリーナをよそに、アリサが俺に問う。


「どう思いますか?」


「……ま、普通に奴らの縄張りに入ったって事なんだろうな」


「……ああ、確かにそうでしょうね」


 魔獣からすればこの辺り一帯を自分達の縄張りにしている筈で、奴らは縄張りに入った人間を迎撃しようとする。

 そしてあの森でそうだったように、連中は頭を使う。即ち徒党を組むんだ。

 多分縄張り内で仲間がやられたのを察して、頭数を集めた。

 それで一気に突っ込んできてる。

 確実に俺達を潰すために。


 でも俺達は少し前に、二人で百体倒してるんだ。

 切り抜けられねえ通りはねえ。


 ……と、思ったけど。


「と、とりあえずリーナさんは後ろに!」


 そう言ってアリサが一歩前に出る。

 そうだ。これは思ったよりも難しい戦いかもしれない。


 そう思いながら俺も一歩前に出る。


 一直線に向かってくる魔獣の群れ。


 その一匹でも後ろに逃したら新米の冒険者が。

 リーナが魔獣の餌食になる。


 これはそういう戦いだ。

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