【86話】逆転の固有技能
俺としばらく戦闘……、いや、俺にとっては戦闘にすらなっていなかったので、
どうやら彼の体力にも限界の時が近づいているらしい、立っているのもギリギリといった感じだ。
「はぁっ、はぁっ! く、くそっ! ま、まだまだこれからだ……っ!」
「いやいや、そろそろ諦めたらどうだ君? 実力差は明白で、もう君に勝ち目がない事はハッキリしていると思うんだが」
「そういう訳にはいかないね……」
青年はまだ諦めて居ないようだが、今俺が言った通り、これ以上続けてもこの局面がどうこうなるとは思えない。
懸念点があるとすれば、彼から感じた異質な感じ、つまりは
だが、どんな
固有技能はその人それぞれに宿る異能の力なので、そりゃあ逆転の可能性をあげればキリがないが、魔神の下で修行していた頃に出会った魔王達の
もう詰みといっても差し支えないと思うのだが、なぜあの幼女はだんだん冷静になっていっているのだろうか。
「ロードよ、そろそろ
「はいっ、ミー師匠!!」
「……ん?」
なんだ、反転?
固有技能の名称だろうか?
異質な青年の雰囲気から固有技能を発動する前兆のような反応を【感知】できたので、おそらくそういう事なのだろうが、さてどうしようか。
定石でいくなら、ここで技を発動させる前に仕留める所なのだが、今回はちょっと事情が事情だしな。
正直に言えば、これまでの戦闘でかなり時間を稼げたし、もう俺のここでの役割は終わったといっても過言ではない。
そもそも、何の恨みも辛みもない人間相手に無駄な殺生をする訳にもいかないし。
むしろ殺す訳にはいかないから、向こうの気持ちが折れる程度に遊んでいた訳だからね。
故に、もうここで手を引いて逃げ帰ってもいいのだが、ぶっちゃけて言えばそれはいつでもできる。
ならば一度彼の異能を体験してみてから、満足して帰るというのはどうだろうか。
普通の達人相手ならここまで舐めた事をしたら足元を掬われる所なのだが、相手の基礎能力はランクB冒険者に毛が生えた程度と言った所。
まあそうそうピンチになる事はないだろう。
それに、仮にも魔族である幼女が四天王クラスまでの実力者をイチコロと言っているのだ、そうとうな力を秘めた技能なのだろう。
という訳で、今回は主人公の必殺技シーンの時に、なぜか邪魔に入らない悪役のごとく悠長に待ち構えてみる事にした。
「ふはははははっ! 無駄な事を! ヒト族がいくら足掻いた所で魔族には勝てない、それが種族としての定めなのだ!! ははははっ!」
うん、とても頭の悪い台詞がバッチリ決まった。
完璧だ。
「……クククッ、本当にそう思うかお主? 魔族だのヒト族だのと、その程度の垣根が今もまだ通用すると思っているのなら、今回でその常識を塗り替える事になるぞ。なにせロードは、このワシが育てたのだからな! ぬははははぁ!」
「ふははははっ! 何だろうと無駄だ無駄ぁ!」
「その驕り、吹き飛ばしてくれるわ! ぬわははぁ!」
なんだこの幼女、案外ノリがいいな。
今まさに必殺技を発動しようとしている青年の時間稼ぎを兼ねているのだろが、ここまで俺に合わせてくれるとちょっと嬉しい。
今度見かけたら、
そして俺と幼女魔族が競い合うように大物感を見せつけ合っていると、とうとう準備が出来たらしい青年ロードが技能を発動させた。
「ぐ、ぉおおおおおおっ!! 固有技能、【
青年がわざわざ技名を叫んで魔力を解放すると、いままで受けていた傷がみるみる塞がって行き、その傷が癒える程に身にまとう魔力の質が強靭になっていった。
自己再生とも身体強化とも違う、もっと異質な何かだ。
……しかし確かにこれは、そのまま逆転の力だな。
【感知】によれば、傷を癒すのにしっかりと魔力を使用している事は確認できているので、傷が塞がる事自体はそこまで不思議な事ではない。
だが問題は傷が塞がった事ではなく、その癒しに使用したはずの魔力が、二倍三倍となって体の底から増幅されて彼に蓄積されていっている事だ。
しかも、いままで普通の人間と変わらない程度の質だった魔力が極限まで圧縮され、ディーの【闇の衣】のように可視化した状態で揺らめいている。
いや、身体強化の変換効率はそのものは【闇の衣】とは比較にならない程だ。
……もしかしたら彼、魔力の超回復と圧縮を繰り返しているのではないだろうか?
極限まで痛めつけた体を技能で瞬時に回復させる事で、肉体の防衛本能を呼び起こして一瞬だけ潜在能力以上の魔力を引き出しているのだろう。
そう考えれば、色々と辻褄が合う。
「な、なにぃ!?」
「ふはははははぁ! 驚いたか下っ端魔族よ! これがロードの切り札、【逆転】じゃ! こうなったロードは物理攻撃では沈まんぞ! トドメを刺さなかった貴様の負けじゃぁ!」
なるほど、ちょっと面白くなってきた。
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