【閑話】グレイグの出立
聞いたところによるとただの原種魔族ではなく、それどころか初代魔族にして最強の魔神様の魔石に触れ、生還したらしい。
本当に僕の弟は、どこまで僕の予想を超えれば気が済むのだろうか。
これでは、心配していたのが馬鹿みたいじゃないか。
「……さて。弟がここまでの成果を上げたんだ、僕もこうしてはいられないね」
「行くのか、グレイグ」
「心配しないでくれ父さん。それに現状では、僕しか死なずに動けそうな身内がいないからね。公爵様からもすぐに向かうように言われているし、今から行かないと間に合わなさそうだ」
数日前、ヴラド公爵様からオルグス帝国の上層部が妙にキナ臭く、その臭いを嗅ぎつけた勇者が動き出しそうだという情報を伝えられていた。
オルグス帝国についた弟がくれた定期連絡の情報と、ガイオン王国で手に入れた密偵による情報を掛け合わせた判断なので、信ぴょう性はかなり高いらしい。
しかもただ勇者が動くというだけではなく、何やら妙に勘の良い人族の姫──確か賢姫ラルファレーナといったか──とかと結託し、人族の大陸で活躍した剣聖、つまりは弟を重点的に探しているという噂まで流れているのだとか。
そういえば手に入れた密偵の魔族の名前は確か、賢姫ラルファレーナと交流を持つ情報屋のグラヴとか言っていたかな。
まあ、この辺はどうでもいい。
話を戻すが、もちろんただの噂であれば良いのだが、それでも火の無い所に煙は立たない。
これが本当の事であれば、いずれ勇者はオルグス帝国で弟と遭遇するだろうし、状況的にも敵対する魔族として討伐行動に出てしまう事も考えられる。
それだけはなんとしてでも避けなければならない。
ただ勇者と弟が出会い、一対一で戦うだけならば良い。
なぜならば原種魔族……、いや魔神の力の一旦に触れた弟が勇者に劣るとは思えないし、負ける事もないはずだから。
だが現実にはそうは行かないだろう。
勇者の行動にはその仲間もついて来るだろうし、勘の良い弟がオルグス帝国で何かを掴み、魔族崇拝とかいう反魔王勢力と揉めている最中かもしれないからだ。
いや、かもしれないではない。
ほぼ間違いなく、何かしらの情報を掴んで敵地に潜り込んでいるだろう事は、定期連絡の情報からも想像に難くない。
そうなれば、勇者と渡り合える程の力を持つ弟の戦いは、どう転ぶか分からなくなってくる。
四天王であった
そして魔族の頂点としての器と資格を持った弟の現状がそれでは、この国も困るし、どうにかしなくてはならない。
というより、家族の危機というだけで僕が動くには十分すぎる理由と言えよう。
故に僕は、勇者を使って弟を探しているであろう王女に話をつけ、交渉を行う事にした。
王女が剣聖の力を必要としているのは、恐らく王都を襲った対魔族に対する切り札の一枚を求めての事だろう。
そうであるならば、その時に加勢に回った公爵様の名前を出せば、交渉のテーブルにつく事自体は可能なはずだ。
そしてその結果によっては敵対どころか、協力関係を結べるかもしれない。
問題は万が一勇者がこちらの話を聞き入れず、その場で敵対してしまった場合だが、幸いな事に、ウルベルト父さんと互角になった今の僕の力ならば、勇者本人と相対しても逃げ切るだけならなんとかなるはずだ。
だけどまあ、この線は薄いだろう。
密偵の情報では、王女から勇者に接触する事はあっても、その逆はまだ一度もないらしいからだ。
なんでも、一々会う度に利用しようとしてくる王女のあまりの腹黒さに、さすがの勇者も辟易しているらしい。
ようするに苦手なタイプの人間という事なのだろう。
それから、弟への直接的な応援については、公爵様が考えがあるので任せておいてくれと言っていた。
何でも、二年間ずっと敵対魔族の情報を嗅ぎまわっていた公爵様が、ようやく弟の情報から何らかの確信が得られたらしく、一気に叩き潰すつもりなのだとか。
あの計算高い公爵様がそう言うならば、本当に安心して良い事なのだろう。
本拠地を叩き潰すと言っていたあたり、妙に自信があるようだったけど、まさか公爵様本人とか魔王様が直接出向くのだろうか。
いや、……まさかね。
実際弟に加えてあの二人が暴れたら、敵対魔族が破滅する未来しか見えない。
ある意味同情するよ。
ともあれ、僕は僕の役目を果たすだけだ。
「では、行って来るよ」
「うむ、村の方は任せておきなさい」
そうして僕はヴラー村を旅立った。
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【転生悪魔の最強勇者育成計画】が書籍化します。
それに伴い、カクヨムで連載を始めました。
カバーイラストは近況ノートにあります。
宜しくお願いします~!
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