【84話】敵魔族になりきる
冒険者達が不穏な空気の中、俺は貴族の私邸でサーニャと合流し事情を説明した。
説明を聞いたサーニャは計画を狂わす要素となった冒険者に殺意を抱いていたが、これは致し方ない。
彼はあくまでも良かれと思って己を奮い立たせていたのだ、こちらの都合で責めるのは酷という物だろう。
その後は一旦作戦を練り直し、ディーの見張り、もとい追跡を幽体化した彼女に担当してもらう事にして、俺は貴族と交渉する方向で動く事にした。
だが、俺がそのままの恰好で交渉に持ち込んでも顔は割れているし、どうにもならない。
という訳で、魔神アレスリードに与えてもらった万能魔法の力を頼る事にした。
使う魔法は
この魔法は基本的に対象者との距離感に錯覚を起こさせたり、遠くの人物や景色を自分に投影させるだけの物なのだが、さらにここから魔法陣の魔改造を行い、属性の追加により俺好みの効果へと進化させる。
追加するのは光属性。
この属性で俺の記憶に中にある魔族を
肉体に変化がある訳ではないので、接触されたら幻覚だと発覚してしまうのだが、まあその心配は無用だろう。
ちなみに投影させる魔族は闘技大会直後に起こった侵略戦闘の時に居た、どこの誰ともわからない適当な敵の魔族だ。
そして改造した
もちろん馬鹿正直に正面からではなく、こっそりと奴の私室へと潜入する形でだ。
私室での奴は既にディーとの奴隷契約を結んだ直後なのか、一人で契約書を眺めニヤニヤしていた。
「ぐふふっ。稀有な戦闘力を持つ
肥満貴族は侵入を果たしている俺に気付く事もなく、無防備に独り言で悦に浸っているらしい。
俺の親友に対し舐めた事を言っているのが気に入らず、少し殺気が漏れそうになったが、思いとどまる。
そもそも、親友が脳筋なのも稀有な戦闘力を持っているのも全て事実だ。
冷静になって気づいたが、不思議な事にこのオッサンは何もおかしなことは言ってない。
ただ一つ違うのは、戦闘力と脳筋のパラメータが意味不明なレベルで振り切れているというだけで。
まあいい。
気を取り直し、声をかける。
「あー、もしもし。悦に浸っている所悪いが、緊急の報告だ」
「……なに!? お、おま、お前いったいどこから!!」
「どこからも何もない。見てわかるだろう、お前のために上からの伝令を伝えに来たんだよ、魔族であるこの俺様がな」
少々傲慢な言い方にはなったが、いままでの魔族崇拝所属の魔族を見て来た経験から、このくらいでちょうどいいのだろうと思う。
案の定、今の発言によって何かを察した貴族の顔色が変わり、背筋を伸ばしこちらに向き直った。
すごい態度の変わりようだ。
「こ、これはこれは……。失礼しました。連絡も無く貴方様が現れたという事は、……つまりそれ程の事態という訳ですね? こちらこそ、この拠点を任せられる身でありながら、配慮に欠けた事をお詫びいたします」
「…………」
態度が変わったとかいう次元ではなかった。
もはや別人である。
魔族の前では一見して一癖も二癖もありそうに見えるこの男が、なぜ先ほどまであれほどの醜態をさらしていたのか、まったく理解ができない。
なんなんだこいつは。
「して、用件とは?」
「……あ、ああ。お前が調達したあの亜人なのだがな、想定以上にこの拠点の
「……な、なんという事だ。まさか冒険者共があの亜人にそれ程執着していようとは。この数日の間にできる事などたかが知れていると高を括っていましたが、完全に私の読み違いでございます。罰はいかようにも」
いや、まあ俺もまさか数日でそこまで仲良くなっているとは思わなかったから、その気持ちは分からなくもないが。
「俺は罰を与える役割を持たない。ただ伝令と、お前の護衛の役割を上から伝えられたに過ぎん。あの亜人の戦力は我らにとっても貴重だ、一刻も早く本部へと送り届けろ。冒険者共は俺に任せておけば良い」
「承知致しました」
恭しく頭を下げた肥満貴族は、急いでこの港町からの脱出準備を整え始めた。
というかこの拠点を任されていたとか言っていたのに、めちゃくちゃ潔いな。
さすが敵陣営パワーだ。
魔族崇拝者にとっては、俺のこの格好はこれ以上ない説得力を持つらしい。
今後も活用していこう。
そしてドタバタと様々な指示を出していた貴族が準備を終え、夕方になりいざ出発をしようという所で、遠くから武装した集団が近づいているのが【感知】できた。
予想通り、冒険者達のおでましらしい。
……さて、どうするかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます