【83話】ディーの人望
【感知】で周囲を警戒しながら、冒険者組合から少し離れた場所で様子を伺う。
組合へと向かっている貴族の私兵の方は、ディーの力を警戒してかかなりの大所帯で向かってきているようだ。
おそらく何かしらの難癖をつけて屋敷に招待し、そこで無理やり奴隷契約なりなんなり結ばせるつもりなのだろう。
まあ、無駄だが。
そもそも四天王クラスの実力を持つに至った親友に、そんな契約などなんの意味も成さない。
体内を循環している魔力だけでも抵抗が可能だろう。
しかしそれはディーだからこそ出来る芸当だ。
実際、普通の亜人でれあばその魔法的な拘束力や権力に抗う術がなく、この国であればすんなりと成功する可能性が高い。
そうであるならば、いままでもそうやって来たのだろうし、今回も上手くいくと考えても不思議ではないのだけどね。
そうしてしばらく待機していると、ようやく到着した私兵が冒険者組合の門を占拠し、口上を述べ上げ始めた。
「失礼する! 冒険者組合所属ランクA冒険者、
占拠した私兵の一人が宣言すると、何事かと組合がざわつき始めた。
ある者は召喚状の意図を察し、やり切れない表情になって拳を握りしめたり、またある者はこうしては居られないとギルドマスターの所へ駆けつけて行ったりしている。
この場の揺れい具合を鑑みるに、やはり親友にはかなりの人望があるようだ。
様々な冒険者達がなんとかしようと行動を始めている。
だが、その当人であるディーは涼し気な表情で私兵の下へ歩み寄り、笑顔でこう言った。
「ああ、お貴族様の召喚状ならしかたねぇな。……悪ぃなお前ら、ちょっくら挨拶にいってくるわ」
満面の笑みで答えたディーが私兵に連行されていき、サーニャが幽体化で身を隠しながら潜伏している貴族の城へと連れていかれていく。
その足取りは軽く、まるでピクニックにいくかのような気分だ。
まあ当然、演技である。
全ては俺達が当初に予定していた計画通りであり、このまますんなり敵の懐に入り込めれば言う事無しと言った所だ。
そしてそれが分かっているからこそ、ディーもしてやったりと言った気持ちで満面の笑顔なのだろうけど、……逆にその本心からの笑顔が妙に真実味を帯び、変な方向にキマってしまったらしい。
屈託のない笑顔を見た冒険者が何を勘違いしたのか、連れ去られようとしている命の恩人をこのまま見捨てられるものかと、しばらくしてから声を上げてしまった。
「……くそっ! 何度も俺達の窮地を救ってくれた恩人が大変な時に、何もできないのか!? ……何が冒険者だよ。ギルドも俺達も、とんだヘタレの集まりだなぁ、おい!!」
「…………」
「お前ら、このままでいいのか? 何もかもが自己責任の俺達だからこそ、義理と恩には必ず報いるのが冒険者のルールだろうが!そうだろ!!」
これはまずい。
ディーの組合での人望を軽視していた訳じゃないが、直前に感じていた嫌な予感が的中してしまった。
なにやら熱い展開が始まろうとしている。
そんな予感がする。
すると、タイミング良く彼の大声に合わせて出張って来たギルドマスターと思わしき大柄な男が、テーブルをその拳で叩いて場を仕切り出した。
「……良く言ったぞ、ルーキー。そうだ、俺達は自由と誇りを持った冒険者だ。決して貴族共の奴隷などではない。散々この組合のギルドメンバーが世話になった礼を、今こそ返してやろうじゃねぇか。なぁに、心配するな。相手がなんだろうが、冒険者組合は国を跨いだ世界組織だ。その気になれば、権力で負けはしない」
どうやら、もう止められないらしい。
完全に彼らは乗り気になってしまったようだ。
これは少し計画を変更する必要があるかもしれないと様子を伺っていると、【感知】に異質な気配が引っかかる。
この感じは……、この前遭遇した、あの青年か。
幼女魔族も一緒にいるようだ。
「待てロード、何をそんなに焦っているのじゃ! 落ち着け!」
「待てませんよ、ミー師匠。俺も、この国のやり方にはそろそろ我慢の限界なんです。今のやり取りを見ていたでしょう? 彼らが立ち上がろうとしている時に、僕だけ何もしないなんて無理ですよ。そんなのは、僕の知っている英雄じゃない」
「この大馬鹿者がぁああ!」
両眼に主人公のような正義感を宿した青年が、幼女を連れて組合の大広間までズンズンと歩いて行く。
あの青年までこの暴動みたいなのに参加するのか……。
ダメだ、これだと完全に貴族が押しつぶされる未来しか見えない。
いや、別にそれは構わないのだが、ディーだけは敵の懐に潜り込ませないとまずい。
彼らには悪いが、肥満貴族とディーが逃げきるだけの時間は、こちらで稼ぐしかないだろう。
何やらヒートアップしていく会議の内容を聞くに、暴動の決行は夜に行わるようなので、それまでに俺自身を貴族に売り込みに行けば間に合うかもしれない。
魔族崇拝の本部から送られてきたと思わしき謎の助っ人Aとして、何かそんな感じの雰囲気を漂わせる。
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