【82話】情報収集



「さて、ではとりあえずこの数日間の情報のすり合わせをする」

「任せろ。俺はともかく、サーニャがついてて失敗する事はあり得ねぇ」

「むふー、ルーくんの役に立てるならなんのそのー」


 オルグス帝国の港町に滞在してから、おおよそ3日が経った。

現在は港町の宿で再度作戦会議を開いている所だ。


 そう、実はこの3日の間、俺はあの青年とばったり出くわさないように【感知】で気をつけながら、ディーやサーニャと一緒に情報収集に努めていたのだ。


 俺自身はあの異質な雰囲気を纏った青年への対策として、その情報収集。

ディーとサーニャは貴族関連の情報収集だ。


 まずあの青年についてだが、隠れながら観察し続けた結果、どうも彼に関しては怪しい点が見受けられなかった。

強いて言うならば、師匠と呼ばれている謎の幼女魔法使いが怪しいくらいだが、あの幼女に悪意があるようにも見えない。


 というかあの幼女、確実に魔族だ。


 以前の俺の【感知】では絶対に気付かなかっただろうけど、魔神アレスリードに修行をつけてもらった今の技能スキルレベルならば、問題なく把握できる。


 ただこの国に魔大陸から出張している魔族が居る事はなんら不思議な事ではないし、ガイオン王国の港町が封鎖されている以上、むしろ少しくらいこちらに魔族が居なくてはいけないくらいなので、なんら問題ではない。


 故に異質な青年には何かひっかかりを覚えつつも、とりあえずは現状維持という事になった。


 で、次に初日に絡んできた貴族関連についてだが、こちらに関しては予想以上の収穫があったらしい。

サーニャが幽体化で貴族の屋敷に忍び込み、その私生活から屋敷に眠っている書類、そして人間関係を調査したところ、なんとあの肥満貴族、魔族崇拝関連の魔族との繋がりがある事が判明したのだ。


 それも奴隷売買系の重鎮らしく、力を持った森妖精エルフ土妖精ドワーフなどの亜人系を組織の戦力とすべく、めぼしい者がいればどんな手段を使ってでも手に入れるらしい。


「で、その亜人の攫った先が……」

「うんー、たぶん使い捨ての兵士として扱われるから、この国の上層部に引き渡されるんだと思うよー」


 という事らしい。


 しかしだとすると恐らく上層部、……いや、この国は既に魔族崇拝関係者の巣窟となっているのだろう。

ガイオン王国の港町を警戒しているのに、この大陸へ密航できるもう一つの拠点であるこの港町が無警戒なのはおかしいと思っていたが、成程、誘い込まれていたという訳か。


 とはいえ、こちらが魔族である事は向こうに知れているとは思えないので、そうだと分かっていればやりようはいくらでもある。


 しばらくの間は、まずはあの貴族をエサにどうにかしようと思う。


「うん、だいたい分かった。まず、こちらが魔族だと認識されていないのであれば、いまからでもヴラド伯父さんに連絡を取った方がいいだろう。向こうは向こうで動いてくれるハズだ。次にあの貴族についてなんだが、一旦ディーには囮になってもらおうかな」

「具体的にはどうするんだ?」

「具体的にはディーを連れた奴らを尾行し、向こうさんの拠点まで案内してもらうって所だな。奴らの実力でディーを奴隷にする事は絶対に不可能だし、手に負えないと分かればすぐにでも拠点へ連行されるはずだ」

「なるほどな、そいつは好都合だ」


 しかもそれほどの実力がある亜人だと分かれば、向こうも喉から手が出るほど欲しいに違いない。

であるならば、何とかして手に入れようと躍起になるハズ。


 奴らにつけ入るなら、そこがベストだろう。


 懸念点があるとすれば、やはりあの異質な青年になる訳だけど……。

まあ、そこまで気にしていてもしょうがない。


 最悪、力ずくでなんとかなるだろう。



──☆☆☆──



 作戦が纏まったその日から、ディーにはこちらの隙を演出するために、単独で行動してもらう事になった。

しばらくの間は冒険者組合で依頼を受けたり、別々の宿で過ごしたりと、そんな感じだ。

俺はそんな親友の後を気づかれないように尾行し、周囲の気配を探っている。


 サーニャの調べではそろそろ貴族側も戦力を整えつつあるらしいから、なにかしらのアクションがあるだろう。


 ちなみに冒険者組合の面々は国家間を移動し旅してきた者が多いのか、森妖精エルフ土妖精ドワーフなどを気にしている様子はない。

むしろ冒険者ランクも高く人当たりの良いディーに対し、好感を抱いているくらいだ。


 というか、仲良くなりすぎだ。


 さっきなんて、討伐依頼でイレギュラーな魔物が発生し、間一髪でディーに助けてもらった冒険者が涙を流してお礼をしていた。


 俺が見て居ない間にどんだけ交流を深めているんだよ。

これじゃあ貴族に攫われそうになったら暴動が起きるんじゃないか。


 ……とても不安だ。


 そして、そんな事を考えながら尾行、もとい観察していた時、ついにお目当ての反応が【感知】に引っかかった。

ようやくお貴族様の方も準備が整ったらしい。

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