【81話】異質な青年
オルグス帝国について早々、さっそく貴族に絡まれた。
さすがに船を降りてすぐは無いだろうと思っていたが、どうやら見通しが甘かったらしい。
まさか金目当てで向こうからやってくるなんて、普通予想できないだろう。
「うーん、早まったかなぁ」
「しょうがねぇだろ、向こうから手を出してきたんだしよ。最悪お偉いさんには傷をつけてない訳だし、なんとかなるんじゃねぇの?」
「まあ、そうなんだけどね」
一応気になる事もあったし、報復される事も込みで派手にやった訳だけど、ああいう輩は根に持つタイプも多いだろうから、しつこ過ぎても面倒なんだよね。
もう追っ払ってしまった以上、気にしていても仕方がない訳だが。
というか、絡まれた張本人であるディーが一番気にしていないのではなかろうか。
「とまあ、それはさておき。……何か用かな、尾行者さん?」
「……ッ!!」
実は先ほどからずっと気になっていたのだが、隠れる様子もない剣士にずっと後をつけられていたんだよね。
見るからにそこらへんの青年っぽい風貌で、尾行を除いて怪しいところが何一つとしてない事から、魔族崇拝関係の人間じゃないと思って放置していたんだけど、話かけてくる気配が全くない。
一体何が目的なんだろうか。
「んぁ? おいルー、尾行されてるならされてるって教えろよ。まったく気づかなかったぞ」
「あらー、このくらい自分で気づくべきだわー。向こうは隠れる気すらないみたいだしー。ディーは注意散漫なのよー」
サーニャの言う通りだとは思うが、
俺もディーが気づいていないとは全く思っていなかった。
「で、返答は?」
「す、すみません! 尾行していた事は謝ります。失礼だとは思いましたが、先ほどの動きを目にして、いてもたっても居られなくなったんです。なんなんですか、あの技は!? まるで瞬間移動ですよ!」
声をかけられた青年剣士があたふたと慌て始め、土下座する勢いで平謝りしてきたと思ったら、今度は勢いよくまくし立ててくる。
成程、さっき貴族を制圧したときのギャラリーに混じっていたのか。
それで俺の動きを見て、不思議に思ったってところかな。
ただあれは技というより、純粋な肉体能力による超高速移動なんだよね。
だからどんな技かと聞かれても困るし、瞬間移動に見えたなら、どちにらにせよ捉えきれない動きってことで、瞬間移動でもあながち間違いじゃない。
ここは適当にはぐらかしておこうかな。
そうすればすぐに嘘だって気づいて、こちらが説明をする気が無い事にも気づくだろう。
「ああ、うん。どうも。まあ慣れだよ慣れ」
「慣れですか!? す、すごい……。慣れでそこまで……」
「えっ」
えぇっ!?
本気にしちゃったよこの人!?
何故か真剣に考え込み始めちゃったし、はぐらかしている事に微塵も気づいていないようだ。
どうやらこの青年は純粋過ぎるらしい。
だがこれはこれで好都合なので、いまのうちに退散する事にする。
先ほどの貴族の件やらなにやらで、こちらも色々と忙しいのだ。
彼には悪いが、いま構っている余裕はない。
「うん、やっぱり考えていても分からないな。よし、冒険者組合で、僕と模擬戦をしてくれませんか!? ……って、あれ? ……消えた?」
──☆☆☆──
純粋な青年を一人残し、三人でその場を一目散に離れた。
魔族としても最上位に入るこの三人が本気で逃げ出せば、並大抵の人には捉える事ができないだろう。
それが考え込んでいて目を逸らしている人ならば、なおさらだ。
「さて。宿を取ったら、今日からはしばらくここに滞在するよ。あの貴族が報復しに来ないとも限らないけど、むしろ都合がいいと俺は考えている」
「だな。面倒事になったら最悪潰しちまえばいいし」
「まあそういう事かな。あ、でも、魔族崇拝の奴らが絡んでた場合はその方針でいくけど、そうでない場合は潰すのはダメだよ」
なぜここまで国での亜人差別が濃いのかは知らないが、色々考えた結果、何かきな臭い感じがするんだよね。
戦争に向けた軍事強化もその疑惑に拍車をかけているし。
ただ確たる証拠もなく攻め込む訳にはいかないので、とりあえずは様子見といったところ。
向こうが網に掛かってくれるのを待つのみだ。
そして魔族崇拝関係のしっぽを掴めたのなら、そこからは問答無用でこの国の拠点を潰して回る。
一つ気がかりなのは、あの青年剣士のような存在が何人も向こうの手駒にいたらマズいって事くらいかな。
最初はなかなか実力を感じ取れなかったけど、最後に彼が模擬戦を申し込んだ時のオーラからは異質な物が【感知】できた。
成長した【感知】で把握できるようになったのだが、あれは固有技能を発動する時特有の魔力操作だ。
俺にも宿っている能力だが、この世界に固有技能と呼ばれる特異な力がある以上、油断は禁物。
しかも彼の固有技能には、何かこう、実力云々ではなく、それを飛び越えて圧倒する何かがあるような気がする。
願わくば、彼が敵でないことを祈るばかりである。
もし彼と戦う事があるのであれば、その時は覚悟を決めないといけないかもしれない。
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