【80話】オルグス帝国に到着


 魔王城での覚醒を果たし、二年の間留守にしていたヴラー村へとやって来た。

当然村人や家族から歓迎はされたのだが、既に彼らは俺が旅に出る事を知っているので、また新たな条件を出されるのかと思ったのだが……。


「うむ、儀式を果たしてきたかルーケイド。ならば何も心配はないな。好きなように旅をしてくると良い」

「えっ!? それだけ!?」


 なんと、ウルベルト父さんはもう何も心配はないと言わんばかりの笑顔で頷き、俺の背中を叩いてきた。

いくら原初の間での儀式を成功させたからって、以前と対応違い過ぎないだろうか。


 何か怪しい気配を感じる。


「何を言っているのだ息子よ。原種魔族の魔石どころか、魔神様の魔石に触れて生還してきたのだろう? それが事実ならば、この世でお前に勝てる魔族など存在しないし、例え相手が勇者であったとしても恐れるに足りない」

「いや、でもなぁ……」


 正直、未熟な時に勇者の超越した力を見せつけられたおかげで、少しトラウマになってるんだよね。

今戦ったら全然違う結果になるだろうけど、あの時は本当にこいつヤバイって思ったし。


「心配性だな。仮に向こうがそれなりに強い勇者であり、女神から超越的な加護を受けていたとしても、良くてお前と五分。しかしそれはあくまでも一対一でだ。さらにそこに私と正面から戦えるディー君やサーニャちゃんが居るのだから、敗北する要素など皆無に等しいのだ」


 そうか、よく考えてみれば四天王と互角になった親友が居たんだった。

そりゃあ負ける要素がないな、納得した。


「よく分かったよ、それなら安心して旅に出られそうだ。ありがとう、父さん」

「はっはっはっは!! なに、次期魔王と目される我が息子に、一発喝を入れてやったまでだ。安心して旅に出ると良い」


 ……ん?


 なんだ、次期魔王って。

いつそんな話になったのだろうか。

そもそも現魔王からはそんな話を聞いていないのだが。


 そしてふと親友の方を見ると、ニヤニヤした笑顔を張り付けて親指を立てていたので、怪しい気配の正体はこいつらの仕業かと、そう確信したのであった。


 勝手に話を進めないで欲しい。



──☆☆☆──



 あれから両親を説得し、今のところ次期魔王になる気はないと説明をしながら、人間大陸へ向かうために港町オリュンへとやってきた。

まあそれでも、ウルベルト父さんは俺が儀式を成功させた事の喜びが大きかったのか、あまり納得した様子がなかったけどね。


 ちなみに今回向かうのはオルグス帝国という、闘技大会の行われたガイオン王国とはかなり離れた位置に存在する、貴族意識の高いヒト族中心の国だそうだ。

もちろん獣人や森妖精エルフ土妖精ドワーフなんかが居ない訳じゃないけど、その地位は低いらしい。


 現在密航できる国がそこしかないので行くしかないのだが、魔族である事を隠したディーは森妖精エルフに見える事から避けて通りたい国だ。

さらに言うと、オルグス帝国は戦争のための軍事面に力を入れている上に、国として不穏な動きもあるらしいので、冒険者として高ランクに位置する俺達に目をつけてこないとも限らない。


 まあ俺達の実力で万が一にも危ない事があるとは思えないので、安全ではあるのだろうけどね。

だが、出来るだけ関わり合いになりたくないのは本音である。


「ルーケイド様が想像していらっしゃる事も分かりますが、そこは我慢してくださると助かります。魔大陸の裏切り者共のおかげでガイオン王国との連絡が取れなくなった以上、あそこの国を経由するしかないんですよ」

「分かってるよ。むしろ、他の国を経由して向こうの大陸へ渡れる事に感謝しているくらいだ。ありがとう」


 以前、大陸間の行き来でお世話になった船長さんが頭を下げるが、なんか以前よりも態度が仰仰しくなっている気がしないでもない。

前も親切な人ではあったけど、ここまでじゃなかったはずだ。


 まさかこんな所まで儀式の成功が知れ渡っているとも思えないが、はて……?


「ありがとうございます。まさか次期魔王様と目されるルーケイド様にご乗船いただけるとは思ってもおらず、大した準備も整っていないのですが、オルグスまでの旅路を満喫していただければと」

「──ってあんたもかーい!!!」


 ふと隣を見ると、今度は親友の二人のみならず、父さんまでもが親指を突き立ててサムズアップしていた。

だめだ、この船長さんも完全に奴らのペースに乗せられている。


 というか次期魔王も何も、王城には王子くらい居るだろうに。

そういうのを無視して大丈夫なのだろうか。


 ……深く考えるのは止そう。

外堀から埋められている気がしてならない。


「さて、それではルーケイド様はこちらへ。大したものではありませんが、特等席を用意しておりますので。お連れのお二方もどうぞごゆっくりして行って下さい」

「もうだめだ、完全に洗脳されている」


 そんな感じで手厚くもてなされ、何不自由なく過ごす海の旅から一ヶ月、ようやくオルグス帝国の港町につき解放されたのであった。


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