【79話】二年間での出来事
俺の突然の復活に周囲が固まる中、皆の下へと歩いて行く。
封印の扉どころか、破壊光線で魔王城を突き破ってしまったため、少し冷や汗が垂れる。
しかしやってしまったものは仕方がない、開き直るしかないだろう。
「や、やあ! 久しぶり! おかげでようやく目が覚めたよ! 二人とも元気だった!?」
さすがに開き直ったくらいで無かったことにするのは無理なので、お茶を濁す目的で城の修復とは無関係な親友に声をかけた。
この場に居る責任者には申し訳ないけど、魔王やヴラド伯父さんに声をかける度胸はないのだ。
すると声をかけた二人がわなわなと震えだし、魔力を高め始めた。
まさかディーの奴、さっそく腕試しでもする気だろうか。
「…………お、おま」
「え?」
「お前こら心配させやがってルゥウウウウウウ!!!! うぉおおおお!!!」
「ルーくん!! すっごく心配したんだよー!!!」
ディーがその場で男泣きをし、サーニャと一緒に崩れ落ちる。
なんだそういう事か、魔力まで一緒に高まっていたから戦闘に入るのかと思った。
だが、確かに二年間も眠っていたのはやり過ぎたな。
俺が二人の立場だったら同じようになっていただろう。
ただそのおかげで成果は十分にあげる事ができたので、この件に関しては許して欲しい所だ。
そして親友との再会を終えてしばらくすると、今度は固まっていたヴラド伯父さんが再起動を果たす。
「全く心配させおってこのバカ者がっ!! ドラウグルの奴から聞くに、小僧お前、魔神様の魔石に触れていたそうではないか! さすがの儂も今回ばかりはおしまいかと、ひやひやしたぞ! もう少しで魔王の奴をぶん殴るところじゃったわい」
「そ、そうだぞルーケイド、ナンデそんな無茶したんダ。オレモひやひやしたゾ」
おい待て魔王、そっちこそ何で魔石を慎重に選べ見たいな立場で話を進めてるんだ。
あなた俺に無茶しろみたいな事言ってたよね!?
しかもめちゃくちゃ棒読みだし。
たぶんこの不良がひやひやしてたのは伯父さんの説得についてだろう。
「どうしたんですか、冷や汗が垂れてますよドラウグル魔王陛下」
「ぬっ!? い、いやこれはお前を心配してだな! ハハハハハ! いやでも、お前なら確実に成功させるって信じてたぞ。なぁ、ヴラド?」
「抜かせ不良めが! 貴様が儂の甥っ子に無茶を吹き込んだことくらい、見抜けぬ儂ではないわ」
どうやら魔王の苦し紛れの言い訳は、伯父さんには通用しなかったらしい。
ざまあ。
やっぱりこういうのは正直にならないとだめだよね、嘘はよくない。
「ははははっ! バレてやんの」
「カァーッ! 可愛くねぇぞこの後輩! せっかく駆けつけてやったのにこの仕打ち、絶対ドSだなお前。しょうがねぇ、城の弁償はルーケイドの借金って事にするか」
「あはははは、は? え、いやそこは何とかならない?」
人の弱みを握った悪い笑顔で魔王がニッコリと笑うが、それは卑怯だ。
どっちがドSなんだよ。
ヘルプ、ヴラえもん。
この不良をやっつけてくれ。
「そもそも小僧に脱出方法を教えてなかった貴様が悪いのだから、この件はチャラじゃな」
その一言で魔王の悪だくみは粉砕され、俺の借金はチャラになるのであった。
──☆☆☆──
原初の間で再会してからしばらく、数日間は身だしなみの整えや二年間で起こった様々な変化を聞かされていた。
特に変化が劇的だったのは親友達についてだ。
二人の戦闘能力は既に四天王並の力に届いており、ディーの近接能力に限っては、武器無しの魔王とそこそこ渡り合えるくらいにまで昇華されていた。
いくら武器のハンデがあるとはいえ、原種魔族と近接戦闘で互角とか、とんでもない進化を遂げている。
もう
見た目からしてもはや闇妖精の面影などなく、ゴリゴリのマッチョである。
まさに筋肉の天才という他ない。
次にサーニャだが、四天王である
レイス族の特徴である種族特性、幽体化や災厄の
鬼族の血も混ざっている彼女は実体になる事も出来るので、幽体化の弱点である魔法攻撃、実体化の弱点である物理攻撃を交互に躱す事ができる。
まさに魔法使いの完成形とも言える力を手にしたらしい。
そして最後に反魔王勢力の動向についてだが、これは少し厄介な事になっている。
一年ほど前に魔族崇拝の連中が起こした事件により、向こうの大陸へと渡る鍵であった、港町レビエーラとの連絡が取れなくなったのだ。
彼らはこちらの魔族船を厄介だと感じたのか、魔族の港町オリュンへの密航手段を潰し、レビエーラにその手口を明かした。
おかげで従来通りにすんなりと入国する事が困難になり、俺達がまた旅に出る際は別の侵入経路を使う事になってしまったらしい。
まだガイオン王国に直行する手段が無くなっただけで他の国には行けるのだが、勇者訪問の道のりが遠のいた事には変わりがない。
はた迷惑な奴らである。
「なるほど、だいたい事情はつかめたよ」
「すまんなルーケイド、完全にこちらの不手際だ」
現魔王ドラウグルが謝罪するが、その必要はない。
そもそもこの旅は俺の我儘から始まっている事なのだ。
道のりが少し遠のいたくらい、どうという事はないだろう。
「いや、大丈夫さ。急ぐ旅でもないしね。遠回りくらいどうということはないさ。どうしても邪魔なようなら、旅の途中で奴らを潰して回るまでだね」
「ああ、是非そうしてくれるとありがたい。……と、言いたいところなんだがなぁ」
「妹の件かな」
そう、是非潰して回りたい所なのだが、敵の勢力に存在する
王としての立場上、反逆者である彼女を始末しなくてはいけないのだろうが、彼個人の感情がそうはさせてくれない。
ただの不良だったドラウグルは、妹と仲間を救うために命懸けで魔王になったのだ。
そう簡単に割り切れるものではないだろう。
「大丈夫、戦闘になっても命までは取らないさ。何のために原初の間で二年間も儀式を行っていたと思っているんだ。今なら魔女王一人が敵に回ったくらい、なんとかする力はあるつもりだよ」
「そうか、恩に着るぜルーケイド。あいつの行いを許せとは言わないが、どうか殺さないでやってくれ。……妹を頼んだぜ。そしてあいつを誑かしやがった黒幕を、完膚なきまでにぶっとばせ」
そう言って心優しい魔王は破顔し、手を差し伸べた。
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