【76話】修行の成果
迫りくる拳の連打を避ける、避ける、避ける。
以前の俺とは比べ物にもならない程に強化された【感知】により、圧倒的な機動力と先読みで肉眼では捉えきれないハズの攻撃の雨を捌いて行く。
目の前に迫りくるは元魔大陸の支配者、悪魔王ベリアル。
その超常の支配者を前にして必死の攻防を繰り返し、相手の呼吸を読み取る。
向こうの感情までは読み取れないが、その攻撃のリズムや軌道から、少しづつ焦ってきているのは理解できた。
それもそのはず、ここまで俺は一切のダメージを負わずにこの悪魔王の攻撃を回避しきっており、そのくせ魔力にも余裕がある。
常に【念力】を用いて【回避】の型を起動しているとは言え、避けている奴と攻撃している奴では、攻撃している奴のほうが消耗が激しいのは自然の摂理。
攻撃と防御の立場が逆転するのも時間の問題だろう。
するとその予想通り、奴に一瞬の隙が訪れた。
呼吸が乱れたことにより態勢を立て直そうとし、一拍だけ構えによる防御が成立しない箇所が産まれたのである。
「そこだっ!」
「……ッ!!」
「うぉぉおおおおぁっ!!!!」
一瞬の隙を突き、この長きに渡る修行の末に磨き上げた【連撃】五の型で攻撃に転じる。
その一撃一撃はまさに超速度の一太刀で、威力も申し分ない。
もし今、【連撃】の威力判定を行うのであれば、以前闘技大会で戦ったディーの闇の衣、あの状態を遥かに凌ぐ程の数値になるだろう。
現魔王ドラウグルの龍闘気と比べても、遜色がない。
かくして、その超越的な動きを持つ連撃は悪魔王ベリアルの胸元に届き、その体を切り刻みながら奴の魔石を砕いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! よし、五人目の魔王突破!!」
「うんうん、さすがに成長が早いねルーケイド。お見事だよ。僕の作った幻影とはいえ、ベリアルは原種魔族でもそれなりに上位に入る魔王だったんだけどね、もう君の相手にはならないか」
勝利の雄叫びに対し、答えるのは魔神アレスリード・アマイモン。
そう、何を隠そうこの戦闘、この魔神の
ここまでの流れを話せば長くなるのだが、要はまだまだ魔神の力で魔改造するだけの器が出来ていないので、地道に戦闘訓練を繰り返しながら器を磨いて行こうという、そういう企み故の行動である。
魔神アレスリードが司るのは自由と可能性、そして魂。
今回はその魂の力を利用し、魔王ベリアルの記録を複製して、今の俺にとって丁度いい程度の敵を用意したという訳だ。
しかもなんと、魔神の固有技能で生み出される複製個体を倒すと経験値のような物が入り、複製した記録の容量、つまり原種魔族の魔石を吸収した時のような効果を若干ながら得る事が出来るとのこと。
同じ敵からは二度と吸収できないそうだが、それでも十分チートな能力である。
最初はゴブリンなんかの弱い魔物から始まり、次いで訓練された魔族、四天王、そして現在は魔王に至るという訳だ。
こんなにバンバン吸収して俺の魔石の容量は大丈夫なのかと心配になるが、なんと俺が現世で手に持っている魔神の抜け殻、その中のエネルギーが現世での俺を保護しているのだという。
あの抜け殻からはなんの力も得られないらしいが、魔神と繋がっているだけあって、この謎の世界から現世に干渉するだけの力を備えているらしい。
少しでも手元から離れると干渉するのは難しくなるようだけど、本当になんでもありだなこの金髪。
ちなみに、自由と可能性の力は最後の仕上げに行うらしいので、今のところは魂の力を使った修行だけを通している。
「にしてもビックリだ。数多の複製魔石を喰らい、基礎能力の底上げを行ったとはいえ、あの魔王を単騎で倒せてしまうなんてなぁ」
俺はしみじみと過去を振り返り、感傷に浸る。
なにせほぼノーダメージでだ、尋常じゃない。
固有技能である【感知】の性能も馬鹿みたいに上昇しているし、もはや避けられない攻撃がないように思える。
今じゃ魔力の籠っていない物理攻撃すら、【感知】で未来予測ができるくらいだ。
「まあ塵も積もればなんとやらってね、つまりはそういう事さ。君には
「なるほど魔神流」
いや、実に恐ろしい戦法だ。
単純なようだが、その成果だけは今の戦闘が全てを物語っている。
ようするに純粋に強いのだ。
「でもそうだね、確かにそろそろ仕上げに入っても良い頃合いかもしれないね。もうここで修行を開始してから二年ちょっとになるし、向こうじゃ君の大切な人達も心配している頃だよ」
「げぇっ!? もうそんなに経ってるの!?」
ってことは、俺はもう16歳くらいってことになるのかな。
この世界で修行をしていると時間の感覚を忘れそうになるけど、ずいぶんと長居をしてしまったようだ。
「ああ、そんなに経っているのさ。だから最後の仕上げを行う訳なんだけど、その前にちょっと昔話に付き合ってくれよ。話している間に、ちゃちゃっとやる事は終わらしておくからさ」
昔話とは?
もしかして魔神アレスリードの魔石があった理由とか、そういう事だろうか。
「まあいいよ、そんなに時間はかからないんでしょ?」
「ああ、少し話をするだけさ」
そう言って金髪美青年は目の前に座り込み、こちらにも着席を促した。
なんだか真剣な表情をしているな。
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