【75話】魔神の戯れ
気づいたらよく分からない空間に、よく分からない金髪の美青年が居た。
いや、よく分からないが良く知っている。
そう、こいつは確か俺をこの世界に転生させた──。
「おや、起きたかな。やぁ、元気してる? 調子はどう?」
「相変わらずの軽口だなぁ。とりあえずさっきまでは元気だったよ」
「それは良かった! それにしても久しぶりだね、君。だいたい十三年ぶりくらいかな?」
やはりそうだ、あの時の神様みたいな感じの何かだ。
いや、みたいな感じではないな。
こいつはもう正真正銘の神様なのだろう。
「ああ、十三年ぶりで間違いないよ。魔神アレスリード・アマイモン」
「……へぇ、僕の名を知るのかい。それはまた、向こうで大層な冒険をしてきたんだね」
そう語る魔神ではあるが、俺には彼が演技をしているように思えてならない。
なにせ人間一人の魂をその手で転生させるような奴だ。
俺がここに居る理由もなにもかも、お見通しだと言われても不思議じゃない。
何故、魔神ともあろう者の魔石があの原初の間にあったのか。
何故、その姓がアマイモンなのか。
他にも疑問は尽きる事がないが、まず聞きたい事は一つだ。
「俺、もしかしてまた死んだ?」
「……プッ、ハハハハハッ! 散々核心的な事を想像しておきながら、最初にする質問がそれかい!? いやぁ、相変わらず面白いね君は。この世界からも見ていて飽きないよ」
何が面白いのか爆笑する魔神だが、もう自分で見ていて飽きないって言ってるあたり、やはりこちらの事を観察していたのは事実だったようだ。
先ほど思わせぶりに自分の名を知るのかいとか言ってたけど、演技で間違いないな。
「万が一の為の確認ってやつだよ、死んでたら核心を突いても意味がないからね」
「そうかいそうかい。まあ、確かに君は死んでないよ。今は原初の間で僕の魔石、その抜け殻を吸収するために眠っている所だね。それはもうぐっすりと」
「抜け殻だって……?」
確かに発見した時、それほど強い反応を示さなかったことに疑問を感じたが、それでも原種魔族と言えるレベルの反応ではあったはずだ。
それなのに、あれ程の魔力を持つ魔石が抜け殻だとでも言うのだろうか。
だとしたら、元々のこいつの力はどれだけの物だったんだ……。
さすがに魔神という名を冠するだけはある。
「でも困ったねぇ。君はあの勇者と対等に渡り合うために、原初の力を手に入れにここまで来たんだろう? だとしたらその期待には答えられないかもね。確かにあの魔石は抜け殻だけど、それでも一度はこの魔神アレスリードの依り代であった事には変わりがないんだ」
「つまり?」
やばい、嫌な予感がする。
もしかして抜け殻だから力は手に入らないけど、容量はめちゃくちゃ食うとかじゃないだろうな!?
ふざけるんじゃないぞ。
それだけはどうしても避けたい。
「ははは。いやぁ、勘がいいね君。まさにその通りだよ」
「まじかぁぁぁあああ!!」
「ははははっ!!」
いや笑いごとじゃないよ魔神さん。
心を読むのはいいけど、これじゃ全てが徒労に終わる。
せめて、どうにかして魔石の中の記憶を頼りに、戦闘訓練だけでも……、ん?
待て、記憶だと?
そういえば、現魔王ドラウグルは魔石に触れたら記憶が蘇り戦闘になるとか、そんな事を言っていたはず。
だがこの魔神アレスリードには俺を転生させた時の記憶もあり、さらに十三年ぶりの再会だと言っていた。
どういう事だ?
「……まさか、ここは記憶の中の世界じゃないのかな?」
「おや、ようやく気づいたかい」
やっぱりか、そうじゃないと辻褄が合わないからね。
でもだとしたら、ここは何処なんだろうか。
一応死んではいないみたいな事を言われてはいるけど、どうにも腑に落ちない。
「なんだ試していたのか。転生前にもひっかけみたいな説明が行われていたし、いい性格してるね魔神殿」
「そう言わないでくれよ。どれもこれも君に期待しているからこその、ちょっとしたお遊びという奴じゃないか。だけど確かに、それもそろそろ潮時って奴だね。僕の正体にも自分の現状にも色々気づいてしまっているようだし、期待通りに──いや、期待以上の成果を上げて、この場所まで辿り着いてくれた君にご褒美の時間だ」
そこで魔神は一息入れ、少しニヤついた表情で俺に告げる。
「という訳でね、君には最強の魔族になってもらうよ。ルーケイド」
「……なるほど」
いや、なるほどじゃない。どういう事だ。
最強の魔族になるって言ってるけど、それはもう断念せざるを得なかったはずだ。
「いやいや、そんな訳ないさ。なんの為に君をここに呼んだと思っているんだい。僕が依り代にしていたあの抜け殻、魔神の魔石が完全に君に吸収されるまでの間、我が子孫を魔改造してあげるって言っているんだよ。喜び給え、原種魔族なんていうチャチな力には頼らない、最強の魔族にまで鍛え上げてみせるからね。……それじゃ、改めて自己紹介をさせてもらおうか」
──可能性と自由、そして魂を司るその一柱、魔神アレスリード・アマイモンの世界へようこそ。我が最愛なる子孫ルーケイド・アマイモンよ──
そう言って奴はニヤリと笑い、こちらを面白そうな目で見つめてくるのであった。
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