【74話】儀式開始


 今まで案内していた魔王ドラウグルの足が、とある白く荘厳な扉の前でピタリと止まる。

もしかしたらここが例の原初の間とやらなのかもしれない。


 白い扉には様々な魔法陣が刻まれており、今の俺では読み解けない効果を持つ力が蠢ているようだ。


「……着いたな。それじゃ早速耐性の【増幅】と行きたい所だが、それをする前にもう一つ忠告しておいてやる。決して夢の中に現れる魔族に負けるんじゃないぞ、ここからはお前自身と原種魔族との力のせめぎ合いだ。お前程の器に原種魔族の力がいくつ収まるかは分からないが、堪えていれば必ず相手はお前に吸収される。何が何でも生きる事を諦めるな」

「…………」


 なんだその土壇場での忠告は。

それに夢の中に現れる魔族ってなんなんだ、分からない事ばかりだ。


 現魔王は儀式中に固有技能に覚醒したらしいけど、もしかして夢の中の死闘でたまたま目覚めたとか、そういう事なのだろうか。


「いいか、良く聞け。相手は所詮しょせん、魔石の中に封じ込められた魔族の記憶に過ぎない。その記憶が魔石の魔力を用いて具現化し、お前の魔石に干渉しているだけだ。だからこそ時間が経てば経つ程敵の力はお前の魔石に吸収され、弱くなる。それにいくら強いって言っても戦うのは夢の中で、いくら死んでも構わねぇし生き返るんだ。だから諦めるな。それさえ出来ればお前が失敗するはずもねぇんだからよ」


 そう言い切る魔王の言葉には実感が伴い、真剣な表情で俺の顔を覗く。

先ほどまでの悪戯小僧のような雰囲気と違い、こちらをかなり心配しているようだ。


 だが、言いたい事は分かった。

つまり過去の原種魔族が脳内に持っていた魔石が俺に作用し、夢という形で模擬戦闘を申し込まれる訳だ。


 なぜそのような事になるのかは俺には分からないが、まあ試してみれば分かることだろう。

それに過去の魔王級魔族と死なずに一戦交えるなんて、それこそ夢のような訓練だ。


「それは良い訓練になりそうだね、楽しみだ」

「…………ッ!! ク、クハハハハハッ!! やっぱそう思うかっ!? そうだよな、お前ならそういうと思っていたぜ! なにせ俺と同じ不良の匂いがしやがるからな」


 魔王は一瞬だけ呆けた顔をした後、それまでの真剣な感じとは一転して、元の悪戯小僧ような表情に戻った。

どうやら余計な心配させずに済んだらしい。


「お前の意気込みは分かった。それじゃあ、さっそくお前の耐性を【増幅】させるぞ。その後は扉に入って好きな原種魔族の魔石に触れれば良い、それが儀式開始の合図だ」

「分かった、宜しく頼むよ」

「ああ、任せろ。……それじゃいくぞ、次代の最強魔族ルーケイド・アマイモンに命じる。【生きろ】そして【諦めるな】」


 魔王が固有技能を発動させて言霊ことだまを増幅し、俺に補助を授ける。

特に変わった感じはしないが、これで準備は完了という事なのだろう。


 その証拠に、これで今日のやる事は終わったとばかりに魔王は扉の封印を解除し、俺を中へと促した。


 扉の中には様々な色の魔石が所狭しと保管されており、拳大の物からその数分の一くらいの物までいろんなサイズが存在しているらしい。

全てが箱に保管さているので一度開封しないと中は覗けないようだが、ここらへんは遠慮しない。


 バリバリと次々に開封し、様子を見ていく。


 それぞれの箱には種族と名前が割り振られており、龍魔王ファフニールや悪魔王ベリアル等、離れていても途轍もない魔力を感じる物ばかりがひしめき合う。

死してなおこれだけの影響力を持つ偉人達に、少しだけ足がすくむ思いだ。


「どうした、ビビったのか?」

「いいや、少し緊張してるだけだよ。武者震いってやつだね」


 少しだけ緊張っていうのは嘘だ、かなりビビっている。


「そうか、そりゃ良かったぜ。だが俺の案内はここまでだ、お前が原初の間に侵入したのも見届けたし、俺は一旦扉を封印して退散するぜ。……何か質問はあるか?」

「無いよ。何から何までありがとう」

「あいよ。んじゃぁな、成功を祈るぜ」


 そう伝えた彼は踵を返し、扉を締め俺を中に閉じ込めた。

少し不安ではあるが、まあやるだけやってみよう。


 まずは魔石の物色からだ。


 そうして辺りをぐるっと見渡し、【感知】を併用しながら一番魔力濃度の高い魔石を検索にかけていく。

すると保管されている物の中から一つだけ、違和感のある反応を感知した。


 特にこれといって強い反応ではないのだが、どこか神秘的というか、なんとなく身に覚えのある感覚が俺を突き抜けたのだ。


「何々……? なんだ、この魔石は。色が無い。魔神アレスリード・アマイモン? 俺と同じ姓を持つって事はご先祖様かな? 試しにこいつから行ってみるか」


 もしかしたら俺と親和性があるのかもしれないし、上手く行けば受け入れる容量をそんなに食わずに力を吸収できるかもしれない。


 そんな淡い期待を抱きつつも、部屋の中央に箱を鎮座させる。


「耐えてくれよ俺。まず一人目、宜しく!」


 魔神アレスリードの魔石に手を触れた瞬間、俺の意識は朦朧としていき、気づけば何もない空間で横になっていた。



──☆☆☆──



「──ィ、オ───、──ィ」


 ……どこからか俺を呼ぶ声がする。

気持ちよく寝ているんだから、起こさないでくれよ。


「──オ、──ィ、────ィ」


 だめだしつこい、もう目が覚めてきちゃったよ。

というか、そもそもなんで寝てたんだっけ。


 確かご先祖様の物と思わしき魔石に手を触れてから、……あれ?


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