【73話】悪戯小僧の悪だくみ
「さて、昔話も済んだところで修行の話へと移るとするかの」
「……ッ!! おう、待ってたぜ公爵様! 実を言うと楽しみでしかたなかったんだ」
「もう、ディーは喧嘩早すぎなのよー。少しは落ち着きなさいー」
魔王が元落ちこぼれの龍族だという話を聞き、しばしの間ディーやサーニャは信じられないといった表情だったが、伯父さんの一言で現実に引き戻されたようだ。
先ほど魔族の頂点と戦えた経験もあり、特にディーの戦意は向上しっぱなしである。
「まあ待て、まずは小僧の儀式から先に執り行うのでな。しばらくの間は眠りにつくハズじゃから、お前達の修行はその間にでもやれば、十分時間はとれるはずだ」
「まあ、そうだな。ルーケイドが眠っている間は、俺の力で耐性を保護してやらなきゃならんし、ヴラドの修行を受けるのであればタイミング的にもちょうどいいだろう」
「そうか、楽しみだぜ」
どうやら俺の儀式には相当な時間が掛かるようで、その間に親友二人の時間はちゃんと取れるとの事。
それにしても儀式って奴はどういう物なのだろうか。
固有技能である【増幅】でしばらく耐性を強化すると言っても、何日も時間がかかるなら魔王にだってかなりの負担になるはずだ。
まさか四六時中かけ続けるという訳でもあるまいし。
「さて、それでは小僧とドラウグルはさっそく原初の間へと行ってくるが良い。儂はこの場にレヴァナントの奴も呼んで、二人の面倒を見ておくのでな」
「おう、任せたぜヴラド。あの頑固オヤジ、
「誰に言っておるのだ、楽勝じゃわい。そちらこそしくじるでないぞ、儂の首が掛かっているのでな」
そう言って俺は魔王に連れられて王宮内を移動していき、ヴラド伯父さんが率いる修行グループとは一旦距離を取るのであった。
──☆☆☆──
魔王城の荘厳な通路を行ったり来たりし、色々な人に丁寧な挨拶をされながら目的地に向かっていると、俺を引率していた魔王に一つ忠告をされた。
「いいかルーケイド、まずお前の儀式についてだが、ヴラドの予想に反してそう簡単にはいかねぇと俺は踏んでいる。いや、別に失敗の可能性が高いとかそういう事じゃねぇんだ。あくまでも俺の見込みなんだが、お前には適正がありすぎるんだよ。だからこそ、より多くの原種魔族の力を取り込むために、休眠時間もそれなりに長くなるという訳だ」
それなりにというのは、どのくらいなのだろう。
元儀式の成功者がそう語っているのだから信ぴょう性のある情報だが、それでもまさか一ヶ月休眠するとか、そういう事ではあるまいし。
そもそも寝ている間は食料とか取らなくて大丈夫なのだろうか。
「具体的にどのくらいなのかな? あと、休眠中の食事は?」
「食事は必要ねぇ。吸収する際に溢れ出る原種魔族の力が、余剰なエネルギーを生命維持に回してくれるからな。ただ期間については正直なところなんとも言えないんだよな、これが。俺の時はだいたい三か月くらい爆睡してたぜ」
「……はぁっ!? 三か月っ!?」
嘘だろ、なんだその長期間の爆睡は。
確かにこれなら、死んでいるように眠っていると言っていた兄さんの言葉にも頷ける。
正直、眠っているという表現の規模が大きすぎて理解が追い付かない。
「それにこれは俺の勘なんだけどよ。お前、一人分の原種魔族で満足する気がねぇだろ? 分かるぜ、俺も元は不良だからな。そういうイタズラ好きの考えは手に取るように把握できる」
「げぇっ!?」
……バレてたのか。
ディーと同じように脳筋タイプなのかと思ったけど、めちゃくちゃ鋭い洞察力を持っているな。
元不良、侮りがたし。
だがそれを理解しつつも俺を案内しているという事は、納得済みという事でもあるのだろうか?
「クハハハハッ! やっぱそうか、そうじゃねぇかと思ったんだ。だが問題ない。元よりお前程の才能を持った魔族にこの俺様の力が加わるんだ、魔石の一個や二個で腰が抜けるような雑魚じゃ、案内する価値もねぇところだったぜ」
「ははは、それはどうも。でもいいの? ヴラド伯父さんは納得してないかもしれないよ」
魔王にとっては問題がなくとも、伯父さんとしては万全を期すつもりだったのは明白だったし。
まあそう言いつつも、儀式を受ける本人である俺が一つや二つじゃ満足するつもりがないので、案外この不良ドラウグルとは気が合うのかもしれないのだけど。
「ああ、全く問題ねぇな。俺はお前が失敗するなんざ微塵も思ってない。自分の限界やその先も見極められないような奴が、この俺に一撃でも浴びせるなんてありえねぇ。信頼しているぜ、そこら辺は。ただ休眠時間が予測不可能ってだけだから、一応忠告してやっただけだ。……存分に力を喰い尽くしてこいよ、次世代の天才」
そういって彼は楽しそうにカラカラと笑い、まるで自分の事のように喜んだ。
四天王達を束ねるくらいだからそうだとは思っていたけど、やっぱり根は良い奴のようだ。
「そういう事ならこちらも遠慮しないよ。全てが終わった時を楽しみにしていてくれ」
「おう、待ってるぜ」
そうして二人して悪戯小僧特有の含み笑いを見せ合い、この儀式の成功を確信するのであった。
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