【72話】現魔王とは


 六連撃目の一太刀で勝負に決着がつき、魔王の龍闘気が鎮まっていく。

俺達の力を結集して一撃しか浴びせられなかった訳だが、それでもこのルールは向こうが言い出した事だ。


 お互いの実力差を考えても出来過ぎた結果だと思うし、これで文句は無いはずだろう。


「……見事だ、ヒヨッコ共。いや違うな、俺に一撃でも与えられるような奴がヒヨッコは無い。名は何と言う? 特にお前だ、双剣使い」

「俺はルーケイド、ルーケイド・アマイモン。元騎士団長ウルベルト・アマイモンの息子だよ。そして俺の仲間のディーとサーニャだ」

「そうか、ルーケイドか。……覚えたぞ」


 魔王ドラウグル・ドラゴンロードはそれだけ言うと、余興は終わりだといった態度で再び玉座に鎮座し、ヴラド伯父さんや案内の騎士を謁見の間へと招き入れた。


 それにしても、やはり物凄い実力だったな原種魔族。

まさかディーのオーラすら貫通させて一撃を与えてくるなんて、想像もしていなかった。


 素の状態なら数発は耐えられると踏んでいたのだけどね。


「ゲホッ、ゲホッ……! ふぅ、死ぬかと思ったぜ。やっぱ強ぇな魔族の頂点、尋常じゃない程に重いパンチだったぜ」

「こら、当り前でしょー。でもやっぱりルーくんは凄いわー、勝負に勝ってしまったのだものー」

「ははははっ! ディーの吹っ飛び具合は凄い勢いだったね。でもそのおかげで勝てた、ありがとう二人共」


 治療を終えて復活したディーとサーニャが駆け寄ってきて、それぞれが笑顔を見せる。

お互いに修行というメリットがあるとは言え、根っこの部分では俺のために付き合ってくれる親友に、自然とこちらにも笑顔が漏れた。


 すると俺達の信頼関係を読み取ったのか、魔王がこちらを興味深そうな瞳で見つめ、ヴラド伯父さんに話を振り出す。


「クククッ、まるで昔の俺達を見ているみたいだな。なぁヴラド、そうは思わねぇかよ」

「フンッ。儂の甥っ子と、元龍族の落ちこぼれであったお前を一緒にするでないわ。お前も戦って分かっただろう、小僧は正真正銘の天才だ」

「クハハハハッ!!! 確かにそうだ、これは一本とられたぞ! 勇者という脅威に備え、数撃てば当たるとばかりに生け贄に捧げられた俺と、天才のこいつとじゃ釣り合わねぇよ! 全く以って正論だ」


 そう楽しそうに言い合う二人の会話を聞いて、俺達は首をかしげる思いだった。

この化け物魔王が元龍族の落ちこぼれとか、何を言っているのだろうか。


 どう考えても最強の魔族にしか見えないのだが。


 あ、もしかして強すぎたが故に素行が悪く、不良みたいな態度だったとかそういう事だろうか。

それなら合点が行く。


「いや違うぞ小僧。お主が何を考えているのかは手に取るように分かるが、それは間違いだ。原種魔族になる前までは、ドラウグルの奴は正真正銘の落ちこぼれであった。むしろ元の実力的には妹の魔女王メドゥーサの方が優位であったくらいだ」


 そう言い切る伯父さんだが、その発言はおかしいのでは無いだろうか。

落ちこぼれの魔族が儀式に成功するなら、誰だって大きな可能性がある事になるし、何より優秀な奴を原種魔族にした方が、儀式の完成後により強い力を発揮するはずだ。


 そうでなくては話の辻褄が合わない。


「まあ、納得がいかないのは分かるが、ヴラドの奴が言っているのは本当だ。俺は確かに落ちこぼれだったし、肩書きだけが王族に連なるどうしようもない奴だったぜ。いずれ来るであろう勇者という脅威がなけりゃ、今頃は喧嘩早いだけが取り柄のクソ野郎になっていた所だな」

「ふむ。自己分析能力は高いようじゃな、見直したぞ」

「うるせぇ、ぶっとばすぞヴラド」


 ますます意味が分からないな。

これは儀式が始まる前に少し話を聞いてみる必要があるようだ。


 俺は目線を伯父さんに移し、何があったのかを尋ねる事にした。

何か隠している事があるなら、先に聞いておかないとまずいかもしれないからね。


「さっぱり意味が分からないのだけど。適正が無いなら死ににいくような物なんじゃないの?」

「当然の感想じゃな、儂とて最初はそう思っていたのだから。だがいくら止めてもこ奴は引かなかったし、聞き入れなかった。その上、当初予定していた魔女王の儀式を滅茶苦茶にし、強引に割って入ったのだから手に負えん」


 そう言って懐かしい思い出を語るように伯父さんは一息いれ、再び言葉を紡ぐ。


「誰もが思っていた、割って入った所で死体が増えるだけだと。儂や不死王ノーライフキングにお前の父、そして優秀な妹ですら成功の確率は極めて低いとされた儀式に対し、無謀だとな。だがドラウグルの奴はやり遂げたのだ、勇者などという化け物に万が一敗北した時に、敵の親玉として殺されるのは出来損ないだけ十分だと言ってな。下らない見栄と意地だけで、固有技能まで覚醒させて全てを覆しおったのだ。……結局、最後に正しかったのはこの大馬鹿者だったという訳じゃ」


 ……なるほど、そういう事か。

差し出された生け贄も何もかも、全ては儀式の対象に選ばれた魔女王のために用意された物で、最初はこの魔王にやらせるつもりは無かったと。


 だが魔王は妹や仲間が死ぬのを黙ってみている事など出来ずに、そこへ乱入した。


 どうやってやったのかは知らないけど、その乱入を成功させた事で儀式の対象はドラウグルへと変わり、最後には奇跡と言っても良い確率で固有技能を覚醒させて、自分の耐性を【増幅】させて魔王へと至った訳だ。


 おそらく魔王の乱入は想定外だったのだろうけど、儀式の試し打ちとでも思ったんだろうね、執り行った人達は。

数撃てば当たると言っていたのもそのせいだ。


 なんて奴だよこの魔王。

まんま物語の主人公じゃないか。


 そりゃ強い訳だ、むしろ覚醒前の状態で一撃でも入ったのがありえないくらいに。


 これだけの話を聞かされたんじゃ、俺も失敗するわけにはいかないな。

最初は好きにやってくれとも思っていたけど、四天王達と魔王が紡いだこの平和、ほんの少しだけ、守りたくなってきた。

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