【71話】戦いの本質


 魔王が玉座の前で仁王立ちを行い、俺達に向けて勝負を催促する。

案内の騎士さんやヴラド伯父さんは当然こうなるかといった表情で、特に手助けする気は無いようだ。


 まあここまでは事前に言われていた通りの出来事なので、最初から手を借りるつもりなどは無かった。

それに相手は一撃でも浴びせる事が出来れば認めると言っているのだし、ここまでハンデを貰って引く訳にもいくまい。


 ただ一つ問題があるとすれば、不意打ちが通用するかどうかだが……。


「一撃だけで合格とは、随分と気前がいいね魔王様。ディー、サーニャ、遠慮はいらない。最初から燃費を気にせずに全力で突っ込むぞ!!」

「そういう事なら前衛は任せろ。数発ぐらいなら俺でも耐えられるはずだ」


 俺の言葉にディーが早速反応し、謎の修行により体得した特殊技能エクストラスキル、【闇の衣】を発動する。


 確かに超闇妖精スーパーダークエルフ状態のディーならば、抵抗力や耐久力において右に出るものは居ない。

仮に魔王の攻撃を絶え凌げる可能性があるとしたら、彼しかいないだろう。


 同時に俺も【身体強化】と【念力】を全力で使用し、遊撃の態勢を見せる。


「サーニャはディーの回復だけを意識して詠唱待機! それじゃ行くぞ!」

「応!!」

「ようやく準備完了かヒヨッコ共。いいぞ、先手は譲ってやるから全力で掛かってこい」


 準備が整った事を把握した魔王が身構えると同時に、二人同時に突撃する。


 まず最初にディーが俺の前へ出る形で盾となり、片腕をこちらに突き出す魔王へと一直線に向かっていく。

次いで俺はその後ろに隠れるようにして追走し、さらに自分の背中に隠れるような配置で、ミスリルボールを起動する。


 起動するミスリルボールの種類は収束のアルファ。

一撃でも奴に攻撃を当てれば良いというルール上、攻撃速度が高い奇襲向きのこいつが適任だろう。


「まず一撃めぇ!! くらいやがれ最強の魔族!!」

「……なるほど、魔力攻撃が付与された突進か。悪くない判断ではあるが、いかんせん迫力に劣るな。まずは手本を見せてやろう。特殊技能エクストラスキル、龍闘気」

「なっ!? 片腕で!!」


 後続の盾となるついでにオーラを解放して大剣を振るうディーだが、無造作に突き出された魔王の片腕に大剣を食い止められ、魔力攻撃としての衝撃波も奴の闘気によって阻まれてしまう。


 おそらくあの特殊技能も【増幅】されているのだろうが、一撃の攻撃力において最大火力を持つ親友の大剣が通らないんじゃ、ダメージの与えようがないな。

さて、どうしたものか。


「戦闘中に驚いている暇はないぞ。そら、お返しだ」

「ぐはぁぁっ!!」

「────、──、ダークネスヒール」


 大剣を片手で捕まれ動けなくなったディーに対し、もう片方の腕で【闇の衣】によるガードすら貫通させて壁際まで吹き飛ばす。

すかさずサーニャが待機していた回復魔法で援護するが、これでもう俺の前に盾役は居なくなった。


 いくらサーニャでも二人同時に治療はできないので、ここで俺がダメージを受ければ一度にパーティーが壊滅するだろう。

まさか一撃で親友のダウンを取るとは思わなかったけど、それでも一か八かやるしかないようだ。


 幸い今の一撃によって構えは崩れ、防御には不向きな態勢となっているため、距離が詰められているここでなら、奇襲を成功させる事ができるかもしれない。


「さて、次はお前だな。見た感じ肉体能力はヒヨッコ闇妖精ダークエルフにやや劣るが、期待しているぞ」

「……【連撃】五の型」


 確かに現時点での基本能力はオーラを纏った親友よりもやや劣り、持ち味と言えば剣の鋭さや回避性能、または【反撃】の型を応用した反射能力でしか勝負できない。


 しかし奴は知らないだろう、俺の本当の武器はそんな切った張ったの大立ち回りではなく、固有技能による小手先の誤魔化しだという事を。


 タネを明かせば簡単な手品でしかないような、二度と同じ手が通用しない小細工。

しかし一度だけならば高確率で成功させる事ができる、狙ったタイミングで勝利を得る能力こそが、俺の真髄なのだ。


「チッ、ただ鋭いだけの一撃か。おいおいおい、ガッカリさせるんじゃ──」

「甘いよ魔王。ミスリルボール・アルファ!!!」


 魔王がその理不尽な身体能力を以って、先ほどと同じようにこちらの双剣を掴みにかかろうとした瞬間、奴の影になるように隠しておいた背中のミスリルボールが効果を発揮した。


 魔法陣の効果はという一文字。

その一文字によって無属性の【身体強化】並びに、【念力】の効果が一時的に凝縮され、掴まれそうになった双剣の速度が一瞬だけ変わる。


 ディーのオーラとは違い、圧倒的な能力増強でもなければ追撃機能もない、そんな攻撃ではあるが、今この場においては何よりも重要な意味を持つ。

一瞬だけ速度が変わるという事は、防御するタイミングを計りそこない、狙いを外される事に他ならないのだ。


「速度が変わっただと?」

「一撃でも浴びせれば俺の勝ちなんだったなぁ!! 防げるものなら防いで見るがいいさ!!」

「チィイッ! 小賢しい!!」


 見事にタイミングのズラされた魔王は狼狽し、高速の連撃を浴びせられる。

しかしさすがは原種魔族の身体能力、加速した俺の斬撃をあの崩れた態勢から四連撃まで腕で弾き飛ばし、最後の一撃にいたっては背後の尻尾で左腕の剣を吹き飛ばした。


 だが、俺の連撃はここでおしまいではない。

むしろ計算通りと言っていいだろう。


 もう次の手はないだろうと確信し、幾重にも崩されたその態勢でこの攻撃は防げないはずだ。


「チェックメイトだよ。そして俺の勝ちだ」

「……ッ!!」


 そう宣言した瞬間、戦闘開始前からチャージしていた【念力】により、吹き飛ばされたはずの左腕の剣が逆走し、魔王めがけて空中を疾走し右頬を僅かに切りつけた。


 これが今回における最後の一手、六連撃目の一太刀だ。


「勝負あり、だね」

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