【70話】魔王との謁見
ヴラー村から馬車で数日間の旅を終え、魔大陸の首都である魔王城周辺までやってきた。
魔王城の雰囲気は確かに荘厳だが、前世のファンタジー作品でよく見かけるような禍々しいものではなく、むしろ清潔感のある見た目をしているようだ。
また王都の街並みも似たようなもので、ガイオン王国の首都と比較してもむしろ活気があって明るい感じがする。
ただ一つ違うのはその都市に存在する住民の戦闘力で、一般的に王都と呼ばれるこの地には強力な魔族が所狭しと跋扈し、成人したばかりで俺達とそう変わらない若い魔族でも、中級くらいの力はあるように見受けられた。
所謂エリート集団である。
しかしそんな中、ヴラド伯父さんを乗せたこの馬車は王都を我が物顔で疾走し、馬車の紋章を見た者達は畏れや敬意を持った表情で道を空けていく。
さすがに四天王であり公爵様といった貫禄だ、見えているのは馭者と紋章だけなのに、威厳が半端じゃない。
「そろそろ城につくぞ小僧。それと一つ忠告じゃ。昔と比べて丸くなったとはいえ、魔王の奴はかなり短気だからな、いつでも戦える準備はしておくと良い」
「え、まさか行き成り戦闘になったりとか?」
なんだそれは、まさかディーと同じように戦闘狂なのだろうか。
「あやつも本気で仕掛けては来ないだろうが、可能性は十分にあるという事だな。しかしそうなれば、甥っ子の友もまとめて腕試しに巻き込まれるだろう。俺と対等に話したければ、力を認めさせてみろとかなんとか適当な事を言ってな」
なんだか結構過激な性格の人らしい。
でも力を認めさせるって言ったって、魔王相手に俺達三人じゃちょっと分が悪いってレベルじゃないぞ。
先に覚醒を済ましてから勝負したいところだけど、無理なんだろうなぁ。
まあ力を認めさせれば良いだけみたいだし、あの手この手を使えばなんとかならなくもない、……かもしれないな。
恐らく魔王側の思惑としては、育てる意味のある奴かどうか見たいという事なのだろう。
であるならば、今持てる全てをぶつけるだけで問題は解決するはずだ。
「いいぜぇ。魔王様だかなんだか知らないが、俺とルーが手を組んで負けるはずがねぇよ。どんと来いだぜ」
「違うわよディー。目的は勝つ事ではなくてー、私達の将来性を認めさせる事よー。たぶん今のままじゃ、魔王様にたった三人で勝つのは無理だわー」
サーニャの言う通りだが、それでもこんな時に俺を信頼してくれる友人が有難い。
ディーの熱血漢な所はピンチの時こそ救いになるな。
「もしあやつの機嫌を損ねても、最終的には儂がなんとかしてやるのでな、存分に暴れてこい」
「ありがとう伯父さん、そうさせて貰うよ」
そしてその後、馬車は王城の門を叩き、宮仕えの魔族騎士の案内のもと魔王城内部へと通された。
いよいよ魔王様との謁見である。
──☆☆☆──
巨大な魔王城内部にある様々な通路を通りつつ、道行く人に丁寧な挨拶をされるが、国に使える騎士にしろメイドにしろ、どれもこれもが必要以上の戦闘力を持っているように見受けられる。
出会った仲でも一番新人臭く、若そうな使用人ですら情報屋グラヴの力と同等くらいの勢いだ。
確かに魔大陸中から選び抜かれたエリートが纏まっているとはいえ、さすがに強すぎじゃなかろうか。
俺のみならずディーやサーニャもかなり驚いている。
するとそんな俺達に気を使ってくれたのか、案内の騎士が話を振って来てくれた。
「気になりますか、お連れの方」
「そこそこにはね。ただあの勇者と対等に渡り合った場所だと考えれば、納得はできるよ」
これくらいの戦力を揃えて居なければ、今頃この魔王城は勇者に落とされていたかもしれない。
普通に考えれば過剰な戦力でも、常に敵が存在する魔大陸の最終防衛ラインだと考えれば、自然なのかもしれない。
「確かにそれもありますが、一番の理由としては魔王様の方針による物が強いですね。あの御方は何かと好戦的ですから、それに合わせているのですよ。国の宰相にして四天王である
なんと本命は魔王の好みだったらしい。
戦争が終わってから丸くなったと聞いたけど、それですらこの姿勢を見せているという事は、戦いが起きる前はどれほど苛烈だったんだろうか。
恐ろしくて聞く気になれない。
「おっと。話の途中で悪いが、そろそろ着くようじゃな。帯剣のみならず、あらゆる武器の所持はこの儂が許すから、いつでも抜けるようにしておけい」
「そうですね、それが良いかと。魔王様から先制攻撃を仕掛ける事は無いでしょうが、公爵様が連れて来た人に興味を示さない訳がありません」
そう言い残した騎士は謁見の間と思わしき壮大な扉の前で立ち止まり、ノックをする。
僅かに扉を叩くその手が震えているので、もしかしたら宮仕えとしてベテランそうなこの人でも、相当なプレッシャーがかかっているのかもしれない。
【感知】ではまだ大した反応は感じられないので、おそらくは後から登場するのだとは思うが……。
だがそう思った次の瞬間、その考えが間違いだった事を知る。
「魔王様。公爵様とそのお連れの方を案内して参りました」
「……そうか、【入れ】」
「────ッ!!!」
中から聞こえて来たその声に圧倒され、まだ何もされていないにも関わらず全身が凍り付く。
一体何が起こったんだ。
ただの言葉でここまでのプレッシャーを受けるなんて、勇者ですらあり得なかった現象だぞ。
剣を握ろうとしても魔力的な
と言う事はまさか、さっきの言葉に特殊技能と思わしき魔力を乗せ、さらにそれを固有技能とやらで【増幅】したのだろうか。
だとしたら【感知】に大きな反応が引っかからなかったのは、いままで魔力を抑える方向に固有技能を使用していたからか。
最強かよ原種魔族、なんでもありだな。
そして扉が開かれた先には龍族の頂点、現魔王と思わしき翼の生えた男性が王座に座っており、無造作にこちらを見つめている。
いやいや、これはやばい、やば過ぎる。
確かにこれは勇者と対等だわ、ただ座っているだけなのに勝ち目が全く見えない。
「やめんかドラウグル。鍛えがいのありそうな若者に出会えて嬉しいのは分かるが、戦う前から戦意を折る気か。言葉に【増幅】なぞ仕込むんじゃないわい」
「ああ、そうかこいつらまだヒヨッコだったな。悪い悪い、じゃあまあずは【楽にしろ】」
魔王がもう一言魔力を乗せた言葉を放ち、俺達の金縛りを解く。
なんなんだこの化け物は。
「はぁっ、はぁっ……。ヤバ過ぎないかこれ」
「これが魔王って奴かよ、とんでもねぇなおい」
「…………さすがにちょっと、怖いかもー」
勇者を追い返す程の力を持った魔族の頂点に対し、これから戦うと思うと絶望感が沸いてくる。
まじで手加減して欲しい。
いや、というか、手加減してくれないと勝負にならないんだが。
「ヴラドから修行の話は聞いているぞ、ヒヨッコ共。だからお前らのクソどうでもいい挨拶は省略し、まずは俺に一撃でも浴びせてみろ。礼儀も何もねぇ、全力で来い。話はそれからだ。お前らが根性を見せている間だけは、この現魔王、ドラウグル・ドラゴンロードが相手になってやる」
そういって魔王は両手を広げ、俺達に戦いを促した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます