【69話】話し合いの終結


 ヴラド伯父さんの言葉を聞いたグレイグ兄さんが、目を鋭くする。

決して嘘は言わせないとばかりに強烈な殺気が籠められたその表情には、兄としての矜持が、家族を守る次期アマイモン家当主としての信念が現れていた。


「……本気ですか公爵様。本気でルーにはそれだけの可能性があると思っているのですか」

「勿論だ。儂とて甥っ子は可愛いのでな、勝算もなく危険に晒すような下手は打たんぞ。この小僧のみならず、生け贄も含めて死者など誰一人出さんと、この吸血帝王ヴラド公爵が約束しよう」


 質問に対し事もなげに答えるヴラド・ヴァンパイアロード。

公爵としての肩書のみならず、四天王としての信用まで持ち出されては兄も一旦引かざるを得ない。


 そして深呼吸を行い、とりあえずはその言葉を信じるといった表情で、再度兄は問いかける。


「しかし僕にはとても信じられない。そして何故そこまでする必要があるのかも分からない。弟はあなたも知っている通り天才で、努力家で、無理をしなくても魔王様に匹敵する存在にまで登りつめられる逸材です。それこそ僕くらいの年齢になる頃には、純粋な努力で魔大陸最強の座を勝ち取れる程に」


 確かに一理ある。

俺が努力だけで原種魔族の力を手にした魔王に匹敵するとか、そこまで己惚れている訳ではないが、それでも修行による強化で間違いなくそこそこに強くはなるだろう。


 どうやら兄の感情は一筋縄ではいかないようだ。


「知っておるとも。だが、だからこそだ。ただでさえそれ程の天武の才を持ち、他種族の者にも偏見を持たぬ優しき心を持った魔族。そんな存在を、あの戦争終結の日から待ち望んでおったのだ。そして儂らはこうも思った。もしあの最終決戦の場に勇者と魔王を超える、最強の魔族が第三勢力として存在していたのなら、ここまで話が拗れる事が無かったのではないか、とな」


 伯父さんは自らの考えと、おそらくは魔王の想いを乗せた一言を放つ。

なるほど、魔王はそんな事を考えていたのか。


 確かに同じくらいの力を持った勢力が二つあるから衝突するのであって、そこに第三勢力が誕生し、三すくみになれば話は変わる。


 さらにその第三勢力には魔族という勢力が味方につき、人間側にも友好的な姿勢を見せているとなれば、それは平和への切っ掛けになるだろう。


 だがそう仮定すると、もしかしたらあの魔族崇拝とかいう組織はそれを狙っていたのだろうか?

本当の狙いは分からないが、魔女王という力すら取り込む強大な黒幕が第三勢力となり、人間と魔族に敵対し姿を現せば一時的には平和が産まれる。


 二つの種族が協力してその黒幕を打倒するという、そのような日が来るまでの間はね。


 ある意味、魔王の方針とは全く違うようで近い効果を持つやり方だ。


「……要するに、あなた方の都合で弟に無理を強いる訳ですか」

「いや、違うな。これはあくまでも小僧が望んだことだ。もし本人が拒否すのであれば、儂から強制させるような事は一切ない。もちろんこちらの都合も込みである事は否定せんがな」


 そう言葉を交わした伯父さんはこちらへと向き直り、あとはお前の判断が全てだと言わんばかりに頷いた。

兄さんも伯父さんの考えに不本意ながら、確かに俺の真意を確かめねばならないと感じたのか、同じように向き直る。


「どうなんだい、ルー」

「そうだね。まあ、時間をかけて強くなる方法もあるのは分かるけど、俺は儀式をやってみようかと思っているよ。こういっては何だけど、その儀式とやらで死ぬ未来が全く見えないんだ。根拠は上手く伝えられないけどね」


 当然、根拠は勇者と同じように世界を渡った魂だからなのだが。

ただその異世界の魂という根拠がある以上、引く気はない。


 グレイグ兄さんとしても、一度弟の危険に対して口を挟まなければいけないと思っての事だろうし、安全が保障されている以上はそこまで本気で反対しないはずだ。


「……そうか、それはルーの勘っていう奴なのかな。ただ弟の勘は昔から恐ろしい程よく当たるし、その勘を極めて固有技能にまで昇華させてしまっているからね、無視はできない。……分かった、また後で確認したい事はあるけど、とりあえず今言う事はもう無いよ。少し不安ではあるけどね」

「分かってくれてありがとう、兄さん。父さんと母さんもそれでいいかな?」


 最終確認として両親に問いかけ、許可を待つ。


「言いたいことはグレイグが大体言ってくれたのでな、心配ではあるが私から言う事も特にない。それに他の誰でもない戦友、四天王である吸血帝王が胸を張って安全だと言っているのだ、万が一などあろうはずもない」

「ああ、私の可愛いルーケイド。絶対に無事に帰ってきて頂戴、もし無理だと思ったらすぐに断って良いのですからね?」


 少し心配気な感じではあるものの、既に成人している俺の意志と先程までのやり取りの上で、結果的には認めてくれた。

さて、ここまで来た以上はその原種魔族とやらの力、思う存分吸い尽くしてやる。


「話は纏まったようじゃな。それでは甥っ子の友であるディーとサーニャの様子も見て、明後日あたりには魔王城へと向かう事とする。小僧はそれまでこの村でのんびりしていると良い。向こうに着いたら儀式のみならず、吸血鬼としての戦い方を一から十まで手取り足取り教えてやるのでな。覚悟しとれ」

「はは、お手柔らかに頼むよ」


 そうしてこの話し合いは終結し、宣言通り二日後に魔王城へと出発したのだった。


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