【65話】超常の者達
お互いの勢力における力の均衡が崩れ始め、いよいよ中級ドラゴンや上級魔族がチラホラと見え始めた頃、今まで偵察を続けていた
彼女の分身と思わしき何匹もの白い蛇が一斉に逃げ出していき、遠くで潜伏していたと思わしき一人の女魔族に絡みつき、一つの肉体となったのだ。
「ようやくお出ましという訳じゃな、
「……やってくれたなヴラド。密偵が持ち帰った情報では、この国の王女が魔族の戦士を雇ったと言っておったが、その戦士がまさか吸血帝王だったとは思いもよらなかったぞ。身を隠す事に長けた貴様がまさか正体を見破られるはずがないと思い、雇われた戦士の候補からは完全に除外していたが……。これはまんまと一杯食わされたようだ」
姿を現した四天王達の覇気に
というか、密偵が話した雇われの魔族戦士って俺達の事だよね。
あの闘技大会の途中にすぐ降伏したのが気になったが、まさかディーの発した闇属性魔力とその実力から推測していたのだろうか。
成程。
だからこそ奴は慌てて身を引き、情報を持ち帰る事を優先して逃げたのか。
だがその持ち帰った情報も、
憐れだなあの魔族、善かれと思ってした行動が全て裏目に出ている。
まあ俺達にとってはこれ以上ない程都合がいいし、このまま勘違いしてくれたら今後も動きやすくなる。
どうか此方の存在に気づきませんようにっと。
でもって、戦いが止まる程の緊張感の中、空気を読まずに暴れまくったら真っ先に
「……して、魔女王よ。一つだけ質問があるのだが」
「はははっ、質問だと? ヴラド公爵ともあろう者が、裏切り者を相手に何を遠慮する必要がある。普段のお前のように、憤ったのならその力で全てをねじ伏せれば良いではないか。……まあ、言いたい事には察しがつくがな。なぜよりにもよってこの私が兄上を裏切ったのかと、お前はそう問いたいのだろう」
「…………」
彼女はどこか悲しげな表情を浮かべ、僅かに憎しみの籠った声で言葉を紡ぐ。
しかし、確かにそれは俺も気になっていた。
なぜ龍族のトップツーとも言える魔王と魔女王、その片割れが反旗を翻したのかと。
誇り高き龍族の血を色濃く受け継ぐ魔族の王種、その頂点である魔王を筆頭に魔大陸は纏まっていたハズだ。
いくら勇者との戦いの後に魔王の方針が変わったと言っても、それでも国民からの支持は未だに厚いし、何よりそのイレギュラーとの戦いにだって勝利しているではないか。
見限る要素など何処にあるというのだろう。
「だが生憎、そんな事をこの場で話しても意味はないし、問題の解決にはならない。あの連綿と受け継がれる原種魔族の力を手に入れた兄上が、最強の魔族が、その考えを正さない限りには絶対に」
「……そうか」
やはり魔王について思うところがあったのか、若干冷静さを失いつつある彼女にヴラド伯父さんは頷き、諦めたように言葉を絞り出す。
そしてその睨み合いの後、これでもう話すような事は何もないと二人の魔力が膨れ上がっていき、四天王同士の頂上決戦が始まろうとしたその時、突如として【感知】に巨大な反応が引っかかった。
「────ッ!? なんだ、この途方もない魔力はっ!? ディー、サーニャ、気をつけろ!!! 警戒を最大まで引き上げるんだっ!!!」
「お、おいどうしたんだルー!? 何があった!!」
「こら、馬鹿ディー!! ルーくんの焦り様を見て悠長な事いってるんじゃないわよ! さっさと身構えろ!」
全面戦闘の後が色濃く残るその戦場のど真ん中、
いったい何なんだあの黒髪黒目の優男は。
いや、そうじゃない。
それよりも、なぜ俺の【感知】に今まで反応しなかったんだ!?
まるで亜空間から唐突に表れ、転移してきたかのような……。
いやまて、落ち着け。
転移なんて言う超常の魔法、そんな理不尽な力はこの世界に存在しないはず。
では、一体何故……。
「なっ!? き、貴様はっ!!」
「ムッ!? ──いかん、いかんぞ小僧!!! 今すぐにこの場から逃げろ!!! 全力でじゃ!!! お主らがこの男に会うのはまだ早いっ!!」
四天王の二人が狼狽し、ヴラド伯父さんが俺達の正体がバレるのもおかまい無しに、なりふり構わず逃亡命令を下す。
幸い顔はこちらに向けていないので、誰に向けて言ったのかは分からないだろうけど、今逃げ出せば確実に対象が絞られるだろう。
それに、当然俺だって逃げたいのは山々なんだけど、今あいつから目を逸らしたら一撃で殺される気がするんだ。
なんとなく、あの男はそんな気配を漂わせている。
どうにかして隙を探さなければ、あの理不尽には万に一つも通用しないだろう。
「おいおい。腹黒王女から息子たちがピンチだって聞いたから、固有技能も駆使して急いで駆けつけてみれば、まさにその通りじゃないか。この人間大陸に四天王が二人して争っているとは、一体何事だ? ……なあ、おい」
その黒髪の男は一歩一歩ゆっくりと、四天王の二人に近づいていく。
まるで遅いはずのその歩みには一切の隙を感じられず、身動き一つとる事ができない。
「……何の成果も出せなかったけど、これはさすがに分が悪過ぎるようだ。まさかヴラドと勇者が手を組んでいたなどと、誰が予想できようか。完全に嵌められたわ」
「はぁ? 俺が吸血帝王と手を組んだだと? 何を言ってるのかサッパリわからないな。まあいいや、とりあえず今のところ脅威になっているのは魔女王の方みたいだし、さっさと撃退しておくか」
そういって無造作に手をかざした黒髪の男は、一瞬だけその途方もない魔力を解放させ、こう言った。
──アイテムボックス・オープン、と。
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