【64話】形勢逆転
「どうした、出て来んのか
「…………」
ヴラド公爵の言葉に未だ応答のない敵側の指揮官だが、【感知】にはこちらの周りをうろちょろと嗅ぎまわる小型の魔力反応が出ている。
恐らく
伯父さんにこの事を告げたいの山々なんだが、今こちらから声を掛けてしまうと吸血鬼との繋がりを疑われてしまう。
せっかく謎の第三勢力として協力してもらっているのに、それを台無しにするような事は控えるべきだろう。
しかしなんとも悪役の似合う助っ人だな、あの人は。
潰しまわっているのは王国への敵対勢力だというのに、周りの者達はヴラド伯父さんを絶望の権化かのように捉えている。
まるで最強の無差別殺人鬼が現れたかのような顔で震えて、まともに動ける者達が半数も居なくなってしまったようだ。
まあ、それは下級ドラゴンや雑魚魔族達にも同じ事が言えるのだけども。
するとついに、この場に漂う恐怖とその圧倒的な存在感に負けて、足の震えていた冒険者の一人が悲鳴にも似た叫び声を上げた。
「お、おいおいおい! なんだよあの異常な
「そうだ! 勝ち目の無い戦いで無駄死にするくらいなら、逃げた方がマシだ! 俺は降りるぞ!」
一人また一人と、恐怖の連鎖は広がっていき、味方も敵もなりふり構わず逃げだしていく。
どうやら今までの戦いですらギリギリだった者達から順に、自分の力不足を痛感してしまったようだ。
もちろんこの場にいる全員の心が折れた訳ではなく、逃亡するのは半数程でしかないが、このままでは総崩れになり、もしかすると王都を守る者達の数が足り無くなってしまうかもしれない。
……だがしかし、これは逆にチャンスでもある。
誰かがここで上手く味方を鼓舞し士気を高める事ができれば、拮抗していた形成が完全に逆転するからだ。
なにせ敵側は逃げまどっている訳だし、事実として吸血帝王が敵勢力なのだから立ち向かいようがない。
逃げた敵の分、単純に相手をする勢力が半分になったと考えれば、こちらの勝利は揺るぎようもないだろう。
さて、それではさっそく一芝居打つとしようか。
「いやまて! あの吸血鬼達の動き、なにか不自然だぞ! まるで魔族同士で争っているかのような感じを受ける! 何か理由があるのか!?」
自分でやっていて白々しいと思いながらも、戦場に向けて大声で叫ぶ。
ついでにチラリとアザミさんへ視線を向け、彼女の考えを示すように促していく。
賛同する者が増えれば説得力が増すだろうし、何よりやたらアザミさんの行動を気にかけてフォローしている弓兵、伝説の
何故アザミさんをここまで気にかけているのかは今のところ不明だが、この場の精神的支柱にもなっている勇者の仲間が賛同すれば、士気は一瞬で回復へと向かうだろう。
「────ッ!! た、確かに! 確かにルーケイドさんの言う通りです! よく見れば、彼らの攻撃対象に私達が含まれていません! もしかしたら、あの吸血鬼達とドラゴン達は仲間割れをしているのではないでしょうか!?」
「……なるほど、そうかもしれないわね。皆、よく聞いて! あの理不尽な吸血鬼は魔大陸四天王、ヴラド・ヴァンパイアロードよ! 私も良く知っている、壮絶な力を持った伝説の魔族。だけどもしあの化け物がこのドラゴン達と敵対し、一時的にでも味方についてくれているのなら、この戦いに負ける道理はないわ!」
よし釣れた!!
ヴェーラの言葉を聞いて、必死の形相で逃げ惑っていた者達の足が軒並み止まり、こちらへと向き直る。
彼らも言われてみれば確かにという表情に変わっているし、一度この事に気づけてしまえばあとは早い。
彼女の言葉で生まれた疑問は確信へと代わり、総崩れだった士気が一度に最高潮へと昇華した。
「はっはっはっは!! 何かと思えばそんな事か、己が国を守らんと立ち上がった勇敢な人間達よ。確かに儂はお主らに用があって参上した訳ではないな。強いて言うならばそこの聖剣持ちが言っていた通り、仲間割れと言った所じゃ。まあ、今のところは味方という位置づけで間違いはないだろう」
俺の意図を察したのか、伯父さんもこれ見よがしな態度を演出し、この大陸の人間達を鼓舞する。
常に味方かどうかは微妙な所だが、一応言っている事に嘘がないだけに真実味が増し、逃げ出した者に勇気を与える最後の一手となったようだ。
それにしても俺とは演技力が段違いだ。
貴族ってこういうものなんだろうか。
腹芸とか好きそうだしね。
「は、はは、はははははっ! 勝てる! この勝負勝てるぞ! 何がドラゴンや魔族だ、そんな奴らこの俺様がいくらでも相手にしてやらぁ!」
「あっ、てめぇついさっきまで逃げようとしてたくせに、抜け駆けする気かよ!? 緊急依頼の報酬は高いんだから、俺にも少しは獲物をよこせや!」
立ち直った者達が次々に敵へとなだれ込み、いままで以上の勢いで応戦していく。
とりあえず第一ラウンドとしては、完全に勝負ありだな。
さて、どうするんだい魔大陸四天王、
そろそろ出てこないとヤバイんじゃないですかね。
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