【63話】防衛戦開始
しばらくの間はサーニャの魔法で押し寄せてくる魔物達を食い止めていたが、ようやく騎士や冒険者といった戦える者達が到着した事により、この場を任せる事ができるようになった。
それも出て来るのはそれなりに高位の冒険者達らしく、この大量の敵を前に一歩も怯むことが無い。
おそらく第一王女が裏で手を引き、大会の出場者達の他にも、王都周辺にいる強者達をかき集めていたのだろう。
そうでなければこれ程の人数は集まらないはずだし、明らかに出て来る者達の中に予選では見かけなかった者が混じっている。
Sランク冒険者やその他ギルドの高ランカーなど、そういったこの大陸を代表する者達の事だ。
「あんたらが噂の剣聖に竜殺し、大魔導士か!! 遠くから戦いの様子は見えていたぜ、流石に強いな! あれほどの攻撃力を持った水属性魔法なんざ、生まれて初めて見たぜ!」
「ふふーん、とうぜんー」
「はははっ! そうか当然か。だが、それだけに惜しい。こんな雑魚共相手にお前達が消耗したんじゃ、宝の持ち腐れだぜ。城壁周りは冒険者の中位ランカーや騎士程度でも、とりあえずは持ちこたえられるだろう。お前達はさっさと他の強者達と手を組んで、敵さんの本隊をぶっ潰してきなっ!!」
駆けつけて来た者の一人がそう励まし、群がる魔物達と俺達の間に割って入る。
どうやら防波堤の役目を単パーティーで引き受けていた事に対して、彼らなりに思う事があったのだろう。
次々と駆けつけて来る中位ランカー達の後ろ姿は力強く、その瞳には荒れ狂う闘志の炎が宿っていた。
さて、そういう事ならさっそく主力部隊を潰しにいきますかね。
俺達を追い越し真っ先に魔族達へと特攻する高位ランカー達に続き、こちらも疾走する。
すると、それに追従してついてくる見知った反応を感知した。
おそらくこの感じは、アザミさんかな?
「あっ、居たっ! 探しましたよルーケイドさん! それとお二人も! まさかとは思いましたが、既に戦闘に入っていたんですね」
「ああ、やっぱりアザミさんか。まあ俺達は外で野営をしていたからね、その分早く動けただけに過ぎないよ。……それと、体調はもう万全みたいだね」
「はい、おかげ様で十分に休養を取る事ができました! それとツキミおに、じゃなかったツキミ様に関してはラルファレーナ姫の護衛に回り、ヴェーラ様に関してはすぐに追いつくとの事です」
サーニャとの試合後、生命力を代償に聖剣を使い続けていた反動で、だいぶ回復が遅れてしまっていた彼女だが、もう大丈夫なようだ。
見るからに元気いっぱいといった感じで、【身体強化】を維持して無邪気に話しかけてくる。
ただあの子孫がこの戦闘に参加しないのは意外だったな。
当然防衛戦である以上は王宮を守護する者が必要だが、あの脳筋ならば真っ先に殴りかかるかと思っていた。
実際に戦闘狂であるディーはそんな感じだし。
それと化け物弓兵に関しては、まあ、納得だ。
その戦闘スタイルの特性上、前に出て戦うよりも後衛として力を発揮した方が強い。
あの正確無比な射撃性能を誇っている以上、仲間への誤射なんてありえないだろうしね。
むしろ先陣切って戦われたら頭を抱えるところだ。
「情報ありがとう、主要メンバーの配置に関しては納得したよ」
「はい! 私も誠心誠意、ルーケイドさんのお役に立てるように頑張りますっ! サーニャさんにだけ良い恰好はさせませんよ!」
そう言って俺の真横を並走し、ピタリとポジションを維持するアザミさん。
まあ闘技大会で彼女の実力はよく分かったし、ある程度の敵が相手なら後れを取る事も無いだろう。
そしてその後は下級のドラゴンや、たまに出現する中級程度の魔族の相手を繰り返し、全面戦闘となる王都周辺。
お互いの戦力の程はまさに拮抗していて、伝説の弓兵が必殺技で敵勢力に大ダメージをばら撒いたと思ったら、種族的な自力の差で徐々に挽回される味方陣営。
俺やディー、サーニャなんかにはまだまだ余裕があり、この戦闘があと十時間続いても体力の半分くらいは確実に残るだろうが、それ以外の者達はそうもいかない。
いまはまだ上級魔族やそれ以上のドラゴンが出てきて居ないから良いが、これが敵戦力の全てではないのだ。
いくら俺達が無双して敵を滅ぼしても、王都が潰されてしまっては元も子もない。
アザミさんは徐々に聖剣の力に頼る場面も増えてきているし、これはちょっとまずいんじゃないかな。
しかしそう考えた所で、今回の防衛戦における本当の主力部隊、総数二十名程度による謎の吸血鬼集団が現れた。
もはや己が魔族だという事を隠す事もなく闇夜を滑空し、手当たり次第に敵を潰し、暴れまくるヴラド公爵勢の登場だ。
「ふははははははっ!!! なんだこの脆弱な魔族、そしてドラゴン共はっ! こんな者達が我が同胞とは片腹痛いわっ! 元魔大陸四天王、
敵勢力に居ると確信しているであろう者に向けて挑発を行い、これ見よがしに踏ん反り返る吸血帝王。
ドラゴンが多く混じっていた時点でそうだろうと思っていたけど、やはり今回は
伯父さんの狙いとしては四天王同士で一騎打ちを行い、無暗に周囲の者達に被害を出さないようにと考慮しての挑発なのだろう。
向こうもヴラド公爵を野放しにしておけば無暗に兵力を削られるだろうし、釣り出すには確かに有効的な作戦だ。
その代償として味方陣営が震えあがり、伝説の魔族の姿を見て絶望の表情を浮かべている事を除けば、だけどね。
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