【62話】前哨戦
闘技大会でルーケイド達が優勝した三日後、太陽も沈み暫く経ったその日の夜、王都は火や魔道具の明かりで闇が照らされ、あたりは昼間のような喧噪で包まれていた。
城壁から見えるのは、地平を覆いつくさんばかりに押し寄せる大量の魔物やドラゴン、または魔族。
国の中枢と言う事で治安維持に余念がないこの都で、いったいどこからこれ程の魔物達がかき集められたのか、市民からすれば信じられないような出来事だろう。
しかしそれとは裏腹に、騎士や兵士達はまるで事前にこの時が来るのを分かっていたかのように動き、冷静かつ迅速な対応で守りを固め、住民を避難させていく。
いったい何故、彼らは平静を保つ事が出来ているのだろうか。
それは日頃の訓練の賜物なのか、または大切な者たちを守るための使命感からか。
そのどちらも正解なのかもしれない。
しかし一つだけ、この動きを実現させるための中核を成す要素として、誰もが明確に分かっている事があった。
それこそが知る人ぞ知る救国の英雄、ガイオン王国第一王女、賢姫ラルファレーナ。
その人物の働きかけによる物なのだと、王都の者達は理解している。
どんな異常事態だろうと事前に察知し、国を救い続けて来た彼女が居るからこそ、今回の事件もまた計算の内なのだと民は信じているのだ。
そしてその推測は正しかった。
知略に長けた
いや、それだけではない。
彼女がその手の内に抱き込んだ者の中には、対魔族戦闘の切り札となるであろう剣聖ルーケイドが居り、さらに彼の働きによって呼び寄せられた吸血帝王、魔大陸四天王のヴラド公爵までもが暗躍しているのだ。
まさか
彼女は理解しているのだ、暗躍している何者かが、これ以上ない程に心強い味方であるという事を。
この二日間、突如として発生した謎の通り魔事件により、敵対する闇組織相手に複数の死傷者や失踪者が出ていたのは知っていたので、おそらくこちらに味方する何者かが、姿を隠して暗躍しているのであろうとは察していたのだ。
そしてこの幸運こそが剣聖達に期待し、勘を用いて判断していた何かの一つであり、彼らを魔族討伐専門の切り札と称した要因でもある。
剣聖達が魔族であるという事実に辿り着いた訳ではないが、常にスキルが囁いているのだ。
彼らにはこの件に対抗しうる程の、大きな秘密があると。
──☆☆☆──
「うーん。ちょっと予想以上に数が多いけど、どうやら始まったみたいだね」
「みてぇだな、腕が鳴るぜ」
「いくら数が多くてもー、ルーくんと公爵様が味方にいるこの状況でー、負ける事はありえないわー。ふわぁぁ……」
【感知】に多くの反応がひっきりなしに引っかかり、その効果の範囲外にもまた多くの敵対勢力が蠢いているのが見える。
騎士や兵士達も出動し、王都からも喧噪が聞こえてくるので、そろそろ俺達の出番という事だろう。
「敵の姿もよく見える事だし、ヴラド伯父さんが全てを終わらしてしまう前に俺達も出るよ。先手必勝という奴だ」
その言葉にディーとサーニャが頷き、城壁外に押し寄せる魔族達のもとへ向かう。
こちらの動きは常にパーティー単位であり、雑魚魔物を蹴散らす場合はサーニャが火力で、俺とディーが彼女に近づく魔物の排除、つまりは壁役だ。
緊急依頼などで冒険者が出動してしまう前に、なるべく効率よく数を減らそうという算段である。
仮に乱戦になってしまうと範囲魔法が使えなくなり、サーニャの魔法が回復としてしか機能しなくなってしまうからね。
そうなると単体を処理する魔法に変えていくことになるのだが、単純な魔法は実力が上の戦士にはなんらかの対策が取られている事が多く、魔力の無駄使いで終わる事が多い。
もちろんサーニャクラスになれば抵抗は難しく、だいたいの敵にはダメージは入るし大きな戦力である事には変わりないけど、その殲滅力がかなり落ちるので、剣で相手をした方が確実という訳だ。
である以上、後半戦においては今回の指揮官などを相手にするときのために、俺達の回復役を務めてもらうのが賢明だろう。
「よし、サーニャ! とりあえず群がっている雑魚魔物相手に、一発デカいのをぶちかましてくれっ!」
「はーい、まかせてー。──、────、──上級殲滅魔法、ダイヤモンドダスト!」
呪文が完成した瞬間、闘技大会で使ったような氷槍の雨ではなく、より広範囲の敵を殲滅することを重きに置いた上級魔法が炸裂した。
その水魔法は氷槍のように立体的な造形はしていないが、凝縮された水属性魔力の粒が小さな結晶となり、大量の塵となって敵へと襲い掛かる。
氷の粒に触れた魔物達は一瞬で内部から凍らされ、抵抗力の弱い魔物などはそのまま体を脆くさせ、崩れ去って行く。
これが彼女の本気の攻撃魔法、ダイヤモンドダストだ。
俺やディーでも直撃すれば、【身体強化】の耐性を突き抜けてそれなりのダメージを受けるだろう。
「よしっ! それじゃあ王都から冒険者や騎士達が出張って来るまで、暴れまくるぞっ!」
「任せろルー! ヴラド公爵に全部持ってかれたらたまんねぇからな!」
「えいえいー、おーっ」
それから十分程、冒険者達が姿を見せ、ドラゴンや魔族といった敵戦力の主力が到着し混ざってくるまでの間、俺達は城壁外部で無双を続けたのであった。
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