【59話】定期連絡(3)


 闘技大会で優勝した日の夜、久しぶりにヴラド伯父さんからの定期連絡があった。

新スキルの獲得に関して相談しようと思っていたので、ちょうどいい感じの時に来てくれたようだ。


 余談だが、エキシビジョンマッチの終了後は表彰式が行われて褒美の話となり、後日王宮に呼ばれる事になっている。

第一王女の方からも魔族関係の件で話があると伺っているし、おそらくガイオン王も交えた相談となるのだろう。


「という訳で、旅の方は順調だよ。これだけお偉いさんの目に留まれば、そろそろ勇者訪問も可能になるんじゃないかな。今回話に上がっている王都防衛の仕事も合わせて、計画は最終段階と言っても過言じゃないよ」

「ほう、なるほど事情は分かった。小僧も中々上手くやっているようじゃの、少し安心したわい」


 そういって伯父さんは愉快そうな声をあげ、同時に安堵した様子を見せる。

計画も前進している事だし、時期的にも勇者と会う許可を貰いたい所だ。


「それでさ伯父さん、勇者との面会の件なんだけど──」

「うむ、まあ待て。その件に関して、いや、それ以前の問題として小僧に伝えておかねばならぬ事が出来たのだ。単刀直入に言うが、今回の魔族討伐の件からは手を引け。そして一度魔大陸へと戻り、詳しい説明を受けろ。これは命令じゃな」


 ……どういう事だ?

いやまあ、一度魔大陸に戻るという件については納得できる。

面会する相手があの勇者だけに万全を期すとか、立場を獲得した以上はいつでも訪問できるからとか、そういう事情もあるだろうからね。


 だがその地位獲得に関して最後の一押しとなるであろう、今回の魔族討伐から手を引けというのが良く分からないな。

このタイミングで手を引いたら俺達の地位を保証してくれる王都が危ないし、そもそも魔大陸に反旗を翻そうとしている魔族を放置しておくなんて合理的じゃない。


 何か理由があるのだろうか?


「……深い理由がありそうだね」

「そうだ、もちろんそれなりの理由がある。小僧が以前儂に連絡しよった龍人とドラゴンの件なんだがな、まさかと思って的を絞って調べたら、予想以上の大物が釣れたのだ。そして、反旗を翻しておる敵の魔族の黒幕が少数名だが判明した。その内一人は間違いなく魔大陸四天王、魔女王メドゥーサ・レヴィアタンじゃ。ようするに、今の小僧にはまだ荷が重すぎるという訳だのぉ」


 そう言ってヴラド伯父さんは大きくため息を吐き、やるせない雰囲気を漂わせる。

いやいや待って、いや待って。

冗談だろそれ、黒幕にいるであろう敵の一人が四天王!?


 何でそんなヤバイ魔族が魔王に反旗を翻してるんだよ、拙いっていうレベルじゃないだろそれ。

四天王の魔女王メドゥーサと言えば、龍族の血を色濃く受け継いだ悪魔族の頂点。

龍族とは魔王を筆頭として、魔大陸でも最強の力を誇る魔族の中の王種じゃないか。


 敵に回った奴がヤバ過ぎて、開いた口が塞がらない。


 あの戦闘が下手なグラヴですら、種族が龍人族というだけで上級魔族入りできる程なのに、さらにその力が四天王クラスになったとなれば、今の俺達ではどう足掻いても皆殺しだ。


 仮に配下の魔族が一人もおらず、四天王一人に対して俺、ディー、サーニャの三人でぶつかったとしても、相打ちになれば御の字といった所。

確かにこれは、緊急事態と言わざるを得ないな。


「それってもしかして、めちゃくちゃ拙い状況なんじゃ?」


 聞くまでもない事だけど、思わず口に出てしまう。


「ああ、拙いのう。だがそれ故に、今までの旅の成果をある程度は放り出してでも、絶対に逃げ帰る必要がある。小僧には自覚がないのであろうが、お前という存在を今失う訳にはいかないのだ。大陸で大きな功績を上げ、彼らと魔族の中立を保てる可能性のある存在。そして何より、小僧の潜在的な力を考慮すれば、この大陸の国の一つや二つ、我らにとってみれば考慮するに値しない」


 こちらとあちらの中立関係の話は初めて聞いたが、俺の知らない魔王や公爵の思惑とかがあるのだろう。

それはさておき、潜在的な力っていうのはどういう事だろうか。

確かに血統は四天王の二人と血の繋がりがあるという事で、だいぶ優秀だとは思うけども。


 もしかしたら固有技能とかも関係しているのかもしれない。

まさか転生者である事が条件とか、そんな事はありえないだろうしね。

この件はバレていないだろうし、誰にも言うつもりはないんだ。


「話は分かったよヴラド伯父さん。でも、さすがに国一つが滅びそうって時に、何の対策もなくノコノコと帰るのは気が進まないな。これでも王国では世話になった人たちも居てね、数は少ないけど、見捨てるのは少々酷だよ。俺は臆病者になりたくない」

「…………」

「伯父さん、頼むよ」


 俺の真意を聞いて黙り込む伯父さんに対し、再度頼み込む。

それに国が一つ滅びるかもしれないって言ってるけど、俺はその話を鵜呑みにしていない。

きっと事前にこの話をしてくれたっていう事は、伯父さんにも何か対策があるのだろうと踏んでいるからだ。


 なにせ今聞いた話では、魔王と公爵はこちら側との中立的な存在を求めているらしいし、そうであるならばその基点となるこの国について、そのまま見捨てるっていう選択肢はないはず。

事前に色々と調査していて、敵のしっぽを掴み続けた吸血帝王ヴァンパイアロード、ヴラド公爵ともあろう者が対策を考えていないなど、絶対にあり得ないだろう。


 そしてしばらくの間睨み合いが続き、ついにその口が開かれた。


「……はぁ。前々から優秀だとは思っていたが、まさかこれ程とはな、小僧。お前の考えているであろう推測通りだ、策は既に練っておるよ」

「うん、知ってた。吸血帝王ともあろう者が、考え無しの命令を下すような失態をおかすハズがない」


 どうやら俺の考えは当たっていたようだ。

ちょっとだけ安心した。


 だっておかしいよね、今日この時に限って定期連絡のコウモリがずっと野生に帰らないんだもの。

魔大陸とこの国ほど離れていれば、だいぶ魔力的な負担が大きく、すぐに野生に戻ってしまうはずなのに。


 そうであるのに、連絡用のコモウリにまだ意識が飛ばされているという事は、つまり……。


「そうじゃな、儂はもうすぐそこまで部下を連れて来ておる。もし小僧が臆病風に吹かれるようならば、一旦お主らを後ろに下げて我らだけで解決するつもりであったが、その必要は無くなったようじゃ。しかしまだ安心はできんのでな、儂が到着するまでのもうしばらくの間、慎重に行動するのだぞ」

「分かったよ」


 まさかとは思ったが、やはり近くまで救援に来てくれていたようだ。

それにしても吸血帝王が助っ人とはこれ以上ない心強さだな。


 伯父さんも政務があるだろうに、甥っ子のためにだいぶ無茶をしてくれたらしい。

まあ、魔王の命令かもしれないけどね。


 今回の侵略に向こうの黒幕が登場するとは限らないけど、負ける気が全く起きなくなってきた。

おそらくこの勝負、こちらの勝ちだ。


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